第14章 少女よ、大志を抱け
今はだいたい夕方前。
さっきより人混みが収まってきた。子どもたちもそろそろ家に帰る時間だ。
雅は当面の目的である刀屋を再び探そうと、周りの店に気を配りながら街を歩いた。
さっき殴られた頬にはガーゼを張ってあった。
「大丈夫かその頬?」
「問題ない」
桂は彼女の隣で一緒に歩いていたが、全く落ち着きのない様子でいた。
初めて手術に立ち会って、その光景を思い出す度体中が震え上がった。
赤い臓器。金属機器。それを平然と使いこなす彼女。
「……ヅラ。大丈夫か?」
「!」
雅はヅラに声をかけた。
彼女から見たヅラの様子は、まるで自分が初めてせんせーの手術に立ち会ったときと同じだったから、何を考えているのかは分かった。
「あ、ああ…すまぬ。自分から立ち会うと言っておきながら、こんなへこたれるとは、武士としての名が廃るな…」
戦前だから、せめてそれくらいは耐えれなければならないと思ったが、やはり堪える。
「……お前は、あの光景を何度も見てきたのか」
「……うん」
「……じゃあ、戦でも、たとえどんな悲惨な戦況だろうと、お前は耐えられるのか?」
「……ああ。多分大丈夫だ。私は歳の数の20倍くらいは、肉塊を見てきたから」
彼女の声もその顔も、あまりにも落ち着いている。
医者の経験が、彼女をここまで冷淡にしたのだろうか?
桂は雅のことを怖いと思ってしまい、話題を変えた。
「そういえば、泊まるのか?」
「ああ。刀も見つけないといけない。今からでは夜になってしまうから明日出直す。何より、あの藍屋の子息の術後経過をもう一度診る必要がある」
「……そうか」
桂は一回深呼吸してから本題に入ることにした。
さっき手術をする前、彼女の勇気ある行動力と今までの彼女とは思えない意志の強さを目にして、思ったことを口にすることを決意する。
「お前は、今でも医者を諦めたいと思うのか…?」
「……あの時は無我夢中だっただけだ」
「それでも、お前は“他人”を救った。俺がちゃんとこの目で見たぞ」
「……」
「だから雅。その力を……」
「あれェ?ヅラに雅じゃねーか。こっから見るといい絵になってるな」
タイミング悪く、銀時と高杉に鉢合わせした。