第14章 少女よ、大志を抱け
メスで皮膚を通り越し、何層もの肉を剥いだ。
奥に進めば進むほどその赤さは鮮やかで、少年が生物であると実感する。
桂はその光景をしっかり見ていた。
そしてようやく、心臓が露わになった。
ドクンッ ドクンッ
規則正しく鼓動をしている心臓。
桂が見たことある心臓は、白黒で書かれた教科書の中だ。
それも、彼女の医学書を覗いた時、少しだけ。
(これが…心臓……)
初めて本物をみた。
手ぬぐいを口と鼻に当てていても、血生臭さが分かる。
雅は溢れ出る血を、きれいな手ぬぐいで吸い取って、それをトレイに置いた。
そして、心筋梗塞の原因となる患部を縫合することを始めた。
ここからが正念場だ。
雅はいつも以上の集中力と緊張感を出した。
(何という集中力だ……)
雅が今まで、松下村塾でもいつも物静か冷静な理由が、今なら分かる気がする。
こんな緊張感を何回も経験しているとなれば、普通の生活にも影響する。
筆使いが上手く字がきれいとは思っていたが、それもこの精密さが求められる手術をしてきたから、というところか。
桂は血生臭さにまだ慣れないも、彼女にも夢中になった。
彼女だけでなく、使っている道具やその動きにも目を配るように意識した。
・・・・・
何故なら、今後のことを考えているから。
縫合が終わると、胸の傷を丁寧に縫い、元の状態に丁寧に治した。