第14章 少女よ、大志を抱け
まず利兵衛の服の上半身をはだけさせた。
「藍屋の旦那。この家に“薙刀”はある?」
「“薙刀”?あるが何に使うんだ?」
「私が事前に持ってる輸血パックを使うには、長い棒に吊す必要がある。畳に刃を差して、柄の方にぶら下げる」
「わ、分かった」
さらに、もし何も知らない誰かが見物しにでもくれば止めてくれと頼んだ。
薙刀を用意してもらい、藍屋勘と旦那と娘には、部屋から出ていくように言った。
グサッ
雅は薙刀を畳に刺して、輸血パックを吊して、利兵衛の肘の裏にチューブを差した。
そして手の甲には点滴を打ち、それに麻酔薬入り注射を打ち込んだ。
「雅。それは何だ…?」
まだ部屋にいた桂は質問した。
「麻酔薬だ。これで痛みを消してから心臓を切開する」
桂でも見たこともない代物だった。
「アンタもこの部屋を出て。アンタにはキツすぎる」
「……」
「ヅラ?」
「……俺も、ここに残ってもいいか?」
「!!」
桂はまだ誰かを殺したことはなかった。人の中身を見たこともなかった。
この先、戦で腐るほど見るのだから、ここで見なければいけない気がした。
「俺はお前の医術をこの目でみたい。松下村塾に来る前まで、お前がやってきたことを見てみたい」
決して楽しむためだとか、そんな疚しいことではない。
「……正気か?」
「ああ。もしお前の集中を削ぐのであれば出て行く。その場合俺にできることを教えてくれ」
桂の真っ直ぐな目。
それを向けられたら、何だか断りづらくなる。
「……構わない。私もそうやって習ったのだから。ただし、もし気分が悪くなったら静かに退室しろ」
長い青髪を一本結びにし、手術用手袋を装着した。
桂はこわばった表情になっていて、雅は緊張ほぐしのために、少しだけ言った。
「……今からアンタに見せてあげるよ」
「?」
「“奇跡”ってやつを」
全ての準備が整ってから、雅は少年の心臓部にメスを入れた。
※次のページは少しグロいので、苦手な人はとばしてください。