第14章 少女よ、大志を抱け
「で、アンタがまだ、言う奇跡の方を信じ、このまま息子を放置して、その神とやらが助けてくれるのを待つか?」
「お、俺は……」
しかし人の心は簡単には変わらない。旦那は未だに迷っているようだった。
「だったら、私が出します。許可を」
母親の藍屋勘が名乗り出た。
「親の許可が必要なら、私が許可を出します。いえ、こちらからお願いします」
「勘!!」
「アナタ……もう分かってるでしょ。この方は間違いなく、優秀なお医者様よ。たくさんの経験が無ければ、あんなこと言えるわけないわ」
勘はさっきの雅の言葉に感服した。
30歳ほどの女性が、まだ20歳になっていない若女に改まった。
「それでいいですか?先生」
「……できれば双方の許可があれば好ましいですが。ではこうしましょう。もし私がアナタの息子さんを傷物にした挙げ句、手術が失敗したら、旦那様。アナタが、仇である私を殺してください。そうすれば公平です」
『!!』
「な、何を言っているんだ雅!お前がそんな簡単に…!!」
桂は大声を上げた。
これから戦で共に戦うつもりなのに、始まる前に終わらせるなんて伊達じゃない。
それに、お前は死んじゃいけない存在だ!
バタンッ!!
「いい加減にして!父上!!」
部屋の外から、娘が襖を勢いよく開けた。
「そのお姉さんは、さっきも私達を助けてくれたんだよ!だから今度と助けてくれるって!」
女房や娘にも散々言われてしまった始末。何て格好がつかないんだ俺は。
(でも…)
藍屋の旦那は頑固そうな頭を、雅に対して下げた。
「せがれを…お願いします……」
今まで掲げていたプライドを捨てて、神ではなく雅を信じることにした。
「はい」
彼女は答えた。
手術を始める前に娘に一言感謝を言った。
「君のおかげで、両親の上さらに妹から同意を得ることができた。これなら確実に手術できるよ」
娘は縮み上がった様子で懇願した。
「……お医者さん。私、何でもやる!一生かけて先生にお礼する!だから“弟”を、助けてくださいッ!!」
「……」
“弟”……か。懐かしい響きだ。
雅は娘の肩に優しく手を置いて、そして、優しく微笑みかけた。
「大丈夫。必ず助けるよ」
それは今まで見たこともない、優しい顔だった。