第14章 少女よ、大志を抱け
(雅……)
桂は思った
旦那殿のように、病を目の前にして神にすがることしかできない者は、そう珍しくはない。
内臓のようなリスクが大きい病気は、死を意味するのと同等だ。
だから、治せるのは神しかいないとお祓いを頼む者も中にはいた。
特に医者に診せるお金もない貧困層の間では。
だが雅の言うとおり、祈るだけでは何も変えられない。
神はいる、必ず救いはあると信じたが、結局は救われることがなかった者の末路は、惨いものだ。
子供や親、恋人を失い、神を憎みすべてを憎む。その内に心は崩れ、荒れた世が続く。
この世は、そういった可哀想な者達が多い。
(だから彼女のような医者が、この先に必ず必要となる。雅こそが、この世の人々と国の病気を治す変革者になるやもしれん)
そこで桂は、ある決意をする……
「“私”(医者)がここに来たのが奇跡とするなら、それは、頭下げてでも、刃を突き立てられようとも、必死に息子と弟を救おうとした、アナタの女房と娘の努力のおかげで果たされた奇跡だ」
「何だと?!それは…どういうことだ!」
ここで桂が話に入って事情を説明した。
「勘殿と娘は、ヤクザ相手に金を借りることを強くお願いしたんだ。斬られそうになったところを、雅が助けたのだ。お前にとって彼女はもう恩人なのだ」
旦那はその後に駆けつけてきたから、このことはしらなかった。
旦那はみるみる青ざめて、自分が情けなく思ってきた。
「アナタ…」
それを心配そうに見つめる勘。
「私はその方達が助けてほしいと言っていたから、助けたいと思った。それなのに、何もせずただ祈っていただけのアナタに、奇跡を語る資格はない」
「……」
男は、何も返すことができなかった。
彼女が放った言葉で、今までの自分がどれほど恥さらしだったのかが分かった。
(この女の言う通りだ……)
俺は、ただ祈ってるだけて、何もしてこなかった。
顔が広い女房だけの頼みにして、加えて娘にさえも苦労を背負わしちまっていた。
「知り合いに金を貸してもらえ」と、俺は命令した。
それがまさか、危うく殺されそうになっていたなんて……