第14章 少女よ、大志を抱け
『!』
雅が急に声を張り上げて、その場の全員がビクッとした。
一番驚いたのは桂だった。
(雅?!)
彼女が怒るところを今まで見たことがなかったから。
「祈る“だけ”で、何もしてこなかっただと?それで奇跡を信じた?アンタがやってることは、愚行だ」
「何だと…!お前に何がッ……!!」
旦那はまた雅に怒りをぶつけようとしたが、さっきと様子が全く違う彼女を前に少し怖じ気づいた。
冷静かつ怖い雰囲気だった小娘が、明らかに立腹している。
「いいか?“奇跡”ってのは、それに見合った努力をしてきたモノにしか現れない。見えない努力が報われる現象を、人は皆“奇跡”と呼ぶんだ」
雨が降るのは、大気中の水蒸気が変化して雲を形成する事でなされる奇跡。
桜が春に咲くのは、花が散った後、夏に葉を作り、秋に葉を落とし、冬に寒さを耐え忍ぶ。樹木がその長い時を耐え抜く事でなされる奇跡。
人がその本質を上手く理解していないだけで、それらは決して、神による施しではない。
必ず、何かしらが努力して果たすものだ。人もまたそうだ。
侍になりたいから努力して強くなり、そしてようやくなれる奇跡。
誰よりも会いたい人がいるから、宇宙の果てまでも探しに行き、ようやく会える奇跡。
人によって奇跡のあり方は様々だ。
人は誰もが、奇跡に近付こうと、人知れず努力する。
そしてそれが報われることで、奇跡がなされる。
(私もかつてそうだった。母を救う“奇跡”を起こすために、何でもやった…)
だが、その奇跡は果たせなかった。
努力しても起きなかった奇跡もあるのを、私は知っている。
なのに、何の努力もリスクも冒さず無償の奇跡を望むなんて。笑止。
「奇跡を実現させるには、多少のリスクを背負う覚悟がある。そんな覚悟もなしに神頼みするとは。世の中自分の思い通りに事が進むと錯覚するな」
「!!」
雅がここまで自分の意志を貫き通すとは。
今の彼女は、今までとは明らかに別人だ。
何にも関心を示さず、自分の意志でさえも示さない、人間味のない子供。
どれにも当てはまらない。
桂は彼女を見てそう思った。