第14章 少女よ、大志を抱け
「そ、そんなこと信じると思うか?!何でてめーみたいな小娘がそんな…!」
「相変わらず見た目だけで判断するのか。先入観もいいとこだ。まあそんなことはいい。私が言いたいのは、手術しなければ息子さんは今日中のうちに死ぬってわけだ。そして手術の許可は、親であるアンタしか出せないんだ。父親殿」
雅は頬の殴られた跡のことを全く根に持つことなく、利兵衛を助けることだけを考えていた。
助けようにしても、親の同意もなしに体を切り開くことはできない。
それでは人を救うことにはならないから。
彼女のせんせーも、そうやって人を助けてきた。
雅は愁青の付き人として、あらゆる町を巡って彼の手術を見てきた。
最初は腕を信じてもらえず罵倒されることもあった。
麻酔薬の存在も詐欺だと言われたこともあった。
それでも、彼は引き下がらなかった。
だから彼女も、華岡愁青の弟子として、引き下がるわけにはいかない。
「……コイツの体に傷を残すのか?」
「なるべく残さないようにするが、心臓の手術痕は多少残ってしまう」
「…それを見られたら、アイツは辛い思いするだろ。まだ7つだぞ」
確かに、同世代の子に見られれば、指を指されて情もない言葉を浴びせられる。
子供だけじゃない。大人も後ろ指を指す。
手術がまだタブーなこの時代で、手術痕の理解を得るにはまだ難しい。
しかも、内臓でも極めて重要な心臓部だ。
「……体の表面をきれいに保つのと息子さんの命、どっちが大事か。頭悩ませてまで考えて決めるような、そんな難しい選択じゃないはずだ」
旦那は畳に膝をつき、へなへなと跪いた。
「俺は…ずっと神に祈ってきた。利兵衛は何も悪いことをしてねェ。こんな仕打ちを受ける奴じゃねェ。何かの間違いだ…と。きっと神様が、罰を下す奴を間違えてんだと」
今でも苦しそうに息をする息子を前に、旦那は激高したさっきの様子とは真逆に、弱々しくなった。
「必ず奇跡が起きると、ずっと祈ってきたんだ。神を信じてきたんだ。たとえお前の腕が確かでも、直接手を下すくらいなら、奇跡を信じて待ってる方が……」
「ほざけがッ!」