第14章 少女よ、大志を抱け
やっと騒ぎがなくなり、周りの人ごみは段々と小さくなっていった。
「雅!大丈夫か!無茶をしよって…!」
桂は雅と合流した。
「悪い。勝手に借りた」
桂の刀を返した。
(随分と変わった人だったな……)
雅はさっきまでの会話で違和感を覚えていた。
自分は女で、面とまともに話してくれる大人など中々いない。
さっきの刀屋もそうだ。
今のように話してくれたのは今までで、幼い頃に過ごした集落に住む近所の大人達、愁せんせー、松陽先生くらいだ。
(何にせよ、話の分かる奴だったのは、不幸中の幸いだな…)
皮肉にも、悪事を働きながら街を護る裏社会人より、全うに生きる社会人の方がいいとは限らないか。
(たとえ子供相手でも“たま”(銃弾)をやるような残忍な輩だと思ったが、案外別の“たま”(飴玉)をやるような人もいるってわけか)
「あの、お侍さん」
さっきヤクザに襲われそうになった親子が、雅に話しかけた。
「おかげで娘は無事で済みました。ありがとうございます」
「……いえ」
「勘!!」
向こうからあわててこちらに男が向かってきた。
さっきの貫禄あるヤクザとは逆で、冴えない大人しそうな男だった。
「あなた!!」
「大変だ!!利兵衛の様子が!!」
その男は女性の旦那で、息子の容態が急に悪化したことを伝えにきた。
「町医者は別の街だ。今金用意しても……」
「ぅ……う」
女性は泣き崩れ、女童は絶望の淵に立っているような、怯えた表情に変わっていた。
さっき、ヤクザに勇敢に立ち向かったときとはまるで違う。
お金を貸してもらうこともできず、弟が死ぬのを自分は黙って待ってるしかできないと、自分の無力さを後悔しているようにも見えた。
雅は、その女童の姿が昔の自分と重なり合った。
「……君、弟を救いたい?」
「!」
女童は驚いたが、涙を拭って「うん」と首を縦に振った。
「私を息子さんのところに案内して。力になれるかもしれない」
女性もその旦那も驚いて雅に問い詰めた。
「アナタは、一体…?」
「……」
“師よ。
“この名前”をもう一度名乗ることを、
お許しください”
「私は、医者だ」