第14章 少女よ、大志を抱け
「何故こうなったか、説明させてもらおうか?」
ヤクザの兄貴が二十歳前の娘相手に話しかけ、女は平然としている。
周りにいる誰もが口をあんぐり開けた。
「……コイツが脅しとはいえ子供に刃を向けようとした。だから止めた」
「……そうか。ならお前さんとのケジメ、俺がつける。その手を離してくれ」
「……」
パッ
雅は男の刀刃から手を離した。
「よし。これで思いっきりできる」
兄貴の腰にも刀がある。ここで斬り合いが始まるのか。
雰囲気はまた切羽詰まり、兄貴は雅に一歩近づいた。
(雅!!ダメだ…!)
喧嘩はヒーローの見せ場だ。己の正義を貫き通すための、男同士の戦い。
この恋愛小説のヒロインであるお前が、そんな不祥事を起こしたら左遷されてしまう!
ヤンキー娘に変わって、刀よりも金属バットを振るう人生を選ぶのか!
不良なんて許しません!お母さん泣いちゃいます!
などと思いながら、桂が雅を庇おうとしたが、遅かった。
バチンッ!!
「!」
兄貴は雅ではなく、弟分のヤクザをブン殴った。
ドガ! ゴッ!
「この馬鹿たれがァ!国の未来を担う若者を傷付けるとは!!刃物がトラウマになったら、おっかあの手伝いもできねーだろ!!どう始末つける!!」
ゲシ! ゴシ!
兄貴はケジメとして、不祥事を起こした弟分をこてんぱんにした。
こてんぱんにし終わると、兄貴は雅の前で改まった。
懐の小刀を雅に差し向けた。
「この者達に代わってこの場で謝罪する。内部で騒ぎがあり冷静さを欠いていたとはいえ、申し訳ない。これでもまだ、その手の平の傷のケジメがつかなければ、俺の手の平をそなたが斬れ」
『!』
ヤクザがケジメとして自分を斬るよう女に頼む。
あまりの異例の事態に、街の住人はどよめいた。
「いや、むしろ十分です。手を煩わせて申し訳ない。こちらからも謝る。しかしそちらにも謝罪の意があるなら、私ではなくこの親子に向けてもらいたい」
そう言われた兄貴は小刀をしまい、地面に座りこんでいた親子に一礼した。
そして再び雅に謝罪の意を表した。
「うちの弟分が過ちを犯す前に止めてもらい感謝する」
兄貴は弟分2人を引き連れて、街のどこかに消えてしまった。