第14章 少女よ、大志を抱け
「うっせェっつんでだよッこのガキ!」
ヤクザは腰の刀に手をかけた。
「よ、よせよ。そこまでは…!」
仲間が止めるよう声をかけたが、男は脅しのつもりで刀を振りかざした。
本気で殺しはしないと。ただ大人しくさせるための躾だと。
ガシッ
『!』
見ているだけの住人が、一同驚愕した。
150cmと少しくらいの小柄の女が、ヤクザの男の刀刃を右手て掴んで止めたのだから。
男のターゲットが女童から彼女に変わった。
「あぁ?!なんだてめー?!」
「離せよ……」
『!』
ヤクザ2人は女のただならぬオーラに一瞬度肝を抜かれた。
睨まれただけで、喉の奥から魂が出てくるようだ。
女童は、何でこの赤の他人のお姉ちゃんが自分を庇ってくれるのか、不思議に思った。
そしてその母親は娘である女童を抱きしめて、止めに来てくれた彼女を心配そうに見つめた。
刀刃を掴んでいる女の手の平から微量の血が流れ出ていた。
(雅…?!)
桂は止めようと急いで向かった。
「な、何なんだてめェ!!や、やるってのか?!」
男は言葉を詰まらせた。
「そんなに喚いたら、せっかくの貫禄が台無しじゃないか」
雅も右腰に差してある刀の柄を左手で掴んで構えた。
(あれは…俺の刀…!!)
桂は左腰に差してあった自分の刀が、いつの間にか雅に盗られていたことにようやく気付いた。
「こ、この女ァ……!」
このまま刀を引けば、女の手にざっくりと傷が付く。
だがその瞬間、女が隙をついて懐をその左手の刀で突いてくるのではないか。
両者、簡単に動き出せない状況で、周りの住人も動かず見て黙る。
その場にただならぬ緊張感が漂う。
「何の騒ぎだ!」
ヤクザの別の仲間が人混みの奥から現れ出て、男の名を呼んだ。
「あ、兄貴!!」
どうやら、この2人のヤクザの若頭らしい。
顔に大層な傷があり、2人よりも貫禄があった。
兄貴と呼ばれるほどベテランで、この緊迫な状況を一目で察した。
「おい。なんつーザマだ。人様に迷惑かけ、街の活気を損なわせるとはァ」
「ち、違うんですぜ兄貴ィ。コイツが……」
兄貴と呼ばれるヤクザは弟分の言葉に耳を貸す気はなく、雅に目を向けた。