第14章 少女よ、大志を抱け
私は、母親だけの医者になりたかった。
逆に言えば、母が助かればそれ以外は別に気にしない。
たとえ他人を助けたとしても、それは母の病気を治すための練習台だと、思ったこともある。
そんな事を幼少期の時に思いながら、せんせーの元で医術を学んだ。
とにかく、母親が大事だった。
母親が大切で、それ以外がどうなろうとも…
どうなろうとも……
「お願いします!!!お慈悲を!」
「!」
街中から、助けを呼ぶような叫び声が響いた。
周りの人はその異常に気付いて、談話を止めてその声の方に注目した。
桂と雅も気になって、人集りをくぐり抜けて、その光景を目にした。
「あれは…!」
女性が倒れた体勢で1人のヤクザの男の足を掴んでいた。
「お願いします!今どうしてもお金が必要なのです。一生働いて返しますのでッ!どうか…」
「しつけーぞ!俺たちはてめーみてーなみずぼらしいアマなんかに付き合ってる暇ァねーんだよ!」
足を振って女性の手をはらったが、女性は涙ながら必死に土下座をし、2人のヤクザはそれを見下す。
ヒソヒソ
「ねェ、あの人。藍屋の主人の奥さんじゃない」
「そうだ。最近見なかったけど、どうして…」
「確か、病気の息子さんをずっと付きっきりで看病してるって聞いたけど…」
雅は、どうして女性がヤクザなどと裏社会の人間に必死に助けを乞うのか察した。
病気の息子を助けるために、お金が必要なのだ。
それも今すぐに必要と焦っているところから、息子の容態が急に悪くなったのかもしれない。
(でも、私は……)
すると頭を下げている女性の隣に、8つほどの女童が現れて、同じように頭を下げた。
その女童は女性の娘で、母親の真似をするようにおでこを地面の土につけた。
「お願いです。お願いです」
拙い発音で何度も言った。
「うるせー奴らだ。行くぞ」
ヤクザ達は背を向けたその時、女童が大粒の涙を流して大きな声で言った。
「お願いッ!“弟”を、助けてェッ!!」
ドクンッ!
「!」
弟……
雅の足が勝手に動いた。