第14章 少女よ、大志を抱け
雅は刀を店主に返した。
「……アンタの連れ。とんでもねェ女だな」
「頼もしいの間違いだ」
桂は我が子のようにどや顔で誉めた。
「で店主。俺の連れに刀を売る気になったのか?」
「……やっぱり無理だ。いくら腕があってもね」
「何故そう差別する?全ての客に平等に接することもできんとは、それでも職人か?」
「そう易々、女に刀なんて売れねーよ。そんな噂が広まっちまったら、うちの店の信用に関わる」
「だが…」
「その心配はない。店を変えようと思っていたところだ」
雅は店の入り口に立っていた。
「雅!」
表情には出てないが、さっき馬鹿にされたことを怒っているのか。
桂は店主に聞こえないように囁いた。
「別に気にしなくてもいいんだぞ」
「違う。気に入ったものがなかっただけだ。それに…」
雅は店主の方に目を向けた。
「店主がちゃんと納得して認めた者の手に収まらなければ、刀も目覚めが悪いだろう」
雅は店を出て、桂は後を追うように出た。
「雅。すまん。俺がついていながら…」
「アンタが謝る事じゃない。私が付き合わせているのだから…」
刀1つも買えないとは。やはり、女では不利なことが多い。
刀だけじゃない。下手したら女性用で戦用の服でさえも…
(髪でも切るか…)
「あとアンタは私を買い被りすぎだ。アンタが私より強い」
「いや嘘ではない。ただ…それでも、本当に戦に出る気なのか?」
桂は、とても心配そうに雅に尋ねた。
「不審に思われるのは仕方ない。女が出陣なんて稀……」
「そういうことではない。お前の未来を棒に振ることになるかもしれないのだぞ」
「!」
刀を買うのに付き合っている桂だが、未だに彼女の参戦には納得しかねていた。
雅は松下村塾からの仲間。松陽先生を奪還するという目的が一致しているのは確かだ。
いつも無関心だった彼女が初めて見せた自分の意志で、少し嬉しくも思った。
だが同じように躊躇いもあり、複雑な気持ちにかられる。
戦場という血みどろの世界に彼女を巻き込みたくない。
戦に出なければ、彼女には普通の女として普通の幸せを掴むこともできる。
それか、いつか心を入れ替えて医者の道を再び歩く決意をすることだってできる。