第14章 少女よ、大志を抱け
話は中断にして、刀を選ぶことにした。
「いらっしゃい。おや、随分と若い旦那だね。恋人連れかい?」
話し上手で商売上手そうな、頭にタオルを巻いた職人が気軽に声をかけてきた。
「いやコイツは友だ。それよりも店主。刀を新調したいのだが」
「そうだね~。今あるのはそこに飾ってある奴らだ!」
男が指さした壁に、刀が鞘に収まった状態で何本か飾ってあった。
雅はその内の1つを手に取って、鞘から少し抜いて刃の出来を見た。
「ぅおいおい!それは包丁とはワケが違うよ嬢ちゃん!」
男は鉄を打つ金槌を置いて慌てて駆け寄って、雅から刀を取り上げた。
「客が手に取って何が悪いんだ?」
桂がそう言うと店主は馬鹿にするように笑い出した。
「え?そこの嬢ちゃんが?遊芸にでも使うのか?」
「……」
雅は笑われているのに、特に嫌な顔もせず何も言わない。
こうなることは知っていたから、特に驚きもしなかった。
女が「戦するために刀買いに来ました」なんて、普通じゃ有り得ない。
しかし桂は、仲間が皮肉られることを不快に思い、言ってやった。
「店主。言っておくが、この者は俺よりも強いぞ」
「ハンッ!そんな冗談通じねーよ。たかが女ふぜいで。手の内なんて知れて…」
シュンッ!
スッ!
「!!」
店主は自分の首に、鉄のように堅く冷たい物が当てられていることに気付いた。
(何…?!)
そしてよく見たら、女から取り上げたはずの刀が鞘しか手元に残ってなく、刀そのものが消えていた。
目の前で女がその刀を持って、峰の部分を首の肉に少し食い込むくらい当てて、スッと引いた。
もし峰じゃなければ、確実に死んでいた。
「あ……へ…?」
雅は店主の首から刀を離し、店主は腰が抜けてその場で尻餅をついた。
鉄打ちで熱い仕事をしていたのに、あまりのことに冷や汗をかいた。
(な、何て…早技……)
気付くよりも先に、首を突かれていたなんて。
しかもこの嬢ちゃん。滅多に見ない“左利き”だ。
女に左利きの凄腕。全てが異彩な存在。
しかもさっきちらと見せた“冷ややかな目”。
普通の男でもするような目じゃない。この世のものではないような。
睨まれただけでも、魂を持っていかれそうな目だった。
まるで、人間じゃ……