第14章 少女よ、大志を抱け
「自分の意志…」
「俺はどうしても知りたい。昔は医者になることを熱望していたお前が、なぜそんな風になったのか…」
「何故私が医者になることを熱望していたと分かる?無理強いで教えられたとは考えられないの?」
「……お前はよく“同じ本”を松下村塾で読んでいたろう。窓のそばに寄っかかって。その荷物の中にも入ってるんじゃないか?」
「!」
桂は雅が肩に掛けている風呂敷を指さした。
雅は図星らしく、目を丸くした。
同じ本だから、何度読んでも同じ内容。
なのに他の本を読もうともせず、飽きたらず何度も開いた。
桂は雅のそんな姿をいつも気になっていた。
あの無欲そうな雅が夢中になるとは、一体どれほど面白い本なのか。
そして後にそれは、手書きの医学書だと分かった。
「無理強いなら、自ら進んで医学書を読むことはないだろう…」
「……なるほど。よく見ていたな」
そして根拠は他にもあった。
「……俺は女医を見たことがない。それほど世間ではイレギュラーな存在だ。だがお前は、そんな常識を覆してでも、医者になることを切望した。違うか?」
「……」
この時代は、女が医者になることはまずあり得ない。
周りからの偏見の目や信用性。
たとえ優秀だとしても、男女差別という壁の前では無力にも等しい。
だからこそ、その世の風潮を諸ともせず、幼い頃から医術を学んだのは、強い意志の現れだ。
周りがどんな目で見ようとも、必ず医者になる。
強い覚悟があったからこそ雅は、傷が内臓まで達した重傷の猫の腹を治せたのだ。
(だから俺は知りたい)
そんな覚悟がありながら、一体何があって医者の道を自ら断念したのか。
幼い頃から抱いた大志も、夢も、覚悟も、簡単に蔑ろにしていいのか?
ハァ
そのしつこさ。晋助だけじゃなく、アンタも大概だな。
「……アンタの言う通りだ。私は、誰よりも医者になることを憧れていた。アンタと同じ、自分の意志で決めた」
「!」
桂の知りたがり屋の熱望に負けて、雅はちょっとした昔話をすることにした。
変えることのできない、後悔の過去を。
と、その前に。
話しているうちに、目当ての刀屋に到着した。