第13章 青い髪、赤い血
「こんなところで何をしているんだ?」
「……面会」
面会?そんなところで?一体誰の?
雅のそばにもっと寄ってみると、彼女の膝元に小さな猫がいた。
「猫?」
ニャー
桂に「こんにちは」と言うように鳴いた。
(か、かわいい…)
黒い毛並みと対称的に、きれいなピンク色の肉球。
すぐにでも飛びかかって触りたい気分になった。
「アンタは…茶菓子でももらったのか」
「!。どうして分かったのだ?」
「口にあんこ」
桂は慌てて口周りを拭った。
「……アンタ、私に聞きたいことがあるんでしょ」
「!」
「今日一日…ソワソワしていたから」
いつも授業を真面目に受けていた桂が、今日は筆をすらすら進めることができず、集中できなかった。
それを後ろの席から見た雅は思った。
原因は昨晩、“あんなもの”を見てしまったからだと。
「…怪我はなかったと先生から聞いたが、本当に大丈夫なのか?その…まるで……映画の演出みたいな」
真面目な話なのに変な比喩を使ってしまい後悔した。
「……嫌なもの見せて…悪かった」
「!」
雅が謝ってきて、桂はあたふたした。
「雅があ、謝ることではない。無事ならそれでいい。このことはこれっきりにしよう。3人の秘密にしようと約束したからな」
雅は安心したように、足元の黒猫をなでた。
「それで、その猫殿はどうしたのだ?」
「…昨晩、怪我していたのを見つけて……他にも建物の下にいる」
以前雅はその他の猫達の様子を見に行ったとき、授業を抜け駆けした高杉と鉢合わせしたことがあった。
桂はあることに気が付いた。
黒猫のお腹のあたりをよく見たら、縫合されていた。
「え?その糸で縫ってあるのを、お前がやったのか?!雅」
「!。……そうだ」
雅は猫を優しく抱きかかえて、桂に見せた。
(昨晩ということは、もしかして、この子猫を……)
それにしても、この縫合の出来映えが実に凄い。
大人しくさせるのが難しい動物の傷口を塞ぐなんて、並大抵の者が出来る技じゃない。
雅は俺より年上といっても、まだ15くらいのはずだ。
物心がつくくらい小さい頃から学んでいなければ、こんなことできない。