第13章 青い髪、赤い血
「それは…どういうことですか?」
「彼女が今までどんなことを経験してきたのかは、先生も分かりません。ですが彼女は恐らく、人に言えないくらいの大きな事情を抱えています。君もそう思ったことはありませんか?」
確かに彼女は、“誰かに言われて”自分の氏を隠していると言っていた。
自分の身元を隠すのは、それなりの深い事情があるのは、桂も分かっていた。
「…先生でさえ、雅の全てを知っているわけではないのですか」
「ええ。彼女がいつか自分から話すまで待っているのですよ」
「!」
松陽はお茶菓子を食べた。
「おいしいですね」
「はい…」
お茶を飲んで一息ついた。
「言い表すのは難しいのですが、彼女はまるで、剣先を常に己に突き立てているような、自らの命を危険にさらす子だと、そういう印象を受けました」
役人が松下村塾を襲撃しようとした夜も、役人に危うく目を持って行かれそうになったのに、全く抵抗もしなかった。
そして昨晩も、助けを呼ぶ声も上げなかった。
今まで彼女は、まるで死に場所を探していた。
そこで松陽は、松下村塾という生き場所を彼女に与えることにした。
「……確かに雅は、俺達と決定的に何かが違うことは、何となく気付いていました。でも俺は……」
桂は俯いて正座をしている膝の上で拳をグッと握った。
(雅がどんな事情を抱えようとも、この松下村塾で共に精進する、松陽先生の弟子である事実は変わらん。俺はただ、奴を少しでも……)
松陽は笑顔になって話しかけた。
「小太郎。君に少し、お願いしてもよろしいですか?」
「!」
「あの子がこの先また、自分に刃を突き立てるようなことがあったら、助けてあげてください」
「え…?」
松陽は桂が雅のことをよく考えてくれていることを、よく知っていた。
桂は銀時や高杉とは別の強みを持っている。
人が信頼関係を築くのに必要なものは、己の力を示すことだけではない。
相手を思いやる志もまた必定だ。
桂は、たとえ世話の焼ける頑固者でも、周りに関心を示さない冷たい者でも、相手のことを思いやる心を持っている。
「剣とは己に突き立てるのではなく、もっと違うものに向ける。それにあの子が気付くには、まだ時間がいります」