第13章 青い髪、赤い血
「もし母さんが生きていたら、今の私に何て言うんだろうな…」
小太郎が言ったように、医者として人を救う私を誉めてくれるのか。
それとも、国に仇なす攘夷志士になった私を叱りつけるのか。
もし戦の終盤で、私が母の名家を滅ぼすことになったら、母はどう思うのかな。
自分を破門にしたお家でも、多少の情があるのか。
それとも、せいせいするのかな。
(死人が考えることなんて、分からないよ…)
雅は左手につけていた手甲を取り外した。
(……戦が終わったら、私が堂々とこの左手を見せる時が来るのかな?)
左手の平を眺めてから、グッと握り締めた。
私にとって今のこの世界は不便だ。
身分を隠しているから、この先生きていくのに必ず不都合が生じる。
考えたくはないが、万万が一、戦に負ければ私は母の名誉を取り戻すどころか、自分が汚名と無名を背負うことになる。
私は母と同じ、この世に背く酔狂人だ。
お家だの女だの下らない肩書きに縛られることを拒み、自ら苦難の道を進む者だ。
だから破滅へと辿る道も同じなのかもしれない。
こんなお先真っ暗な私が、誰かのそばにいていいわけがない。
(私は母のように、誰かを愛する権利も愛される権利も、そんなものなんてない……)
雅は昔の風景をまた思い出した。
病弱な母を診てくれるせんせー。私はそんな方の元で医術を学んだ。
でもそれだけじゃない、大切なのは他にもいた。
あの頃は、私よりまだ背が低かったな。
(アイツは“あっち”で元気にしてるだろうか…)
『姉さん!』
私の唯一無二の大事な…
一方、桂は患者専用の寝室でぬ″~ぬ″~寝ていた。
そして夢を見ていた。
数年前、松下村塾で松陽とかわした約束を。
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回想
あの夏祭りの翌日。
桂は授業をいつものように真面目に取り組むことができなかった。
驚くことに、雅は昨晩の大惨事があったにも関わらず、普通に授業を受けていた。
(雅…?!)
教室で見かけた途端、昨晩見たものがフラッシュバックした。
雨に降られたみたいに、着物と青い髪がびしょびしょに血まみれになったあの姿を。
彼女とすれ違うとき、意識してるせいか微かににおった気がした。
血のにおいが。