第13章 青い髪、赤い血
よく考えれば、最初から分かっていたことだ。
こちらにとっても向こうにとっても、武器を動かす兵も、兵を動かす金もかけがえのないもの。
私たちにとって、あのペテン師辰馬は、一見のほほんとしている男だが、戦をするのには必要不可欠な男だ。
そして幕府側にとっての私の血族も然り。
今の幕府があり続ける限り、私の血族は戦という花の蜜を吸い続ける蝶として、いや汚らしい血をむさぼり続ける蛾として、この先も猛威を振るうだろう。
私の血族がある限り、幕府の強大な武器は私たちにその砲口を向け続けるだろう。
確かに、戦後も国を天人から護り続けるには、それなりの兵力は必定。その必要性は認める。
だがそれは、今の将軍家の片棒を担ぐ者達には任せられない。
だから戦に勝ち、幕府打倒の悲願を果たす日がくれば、私の血族は滅ぶ。
(……問題は、私がそれを討つ覚悟があるかってことだ)
アイツらは、母をのけ者にしさらには罪人に仕立て上げた輩だ。
何より、私の仲間を殺してきたのに違いない。
だが……何の迷いなしに、果たして斬り捨てることができるのか。
たとえ敵でも、母親の家族であった事実は偽りではないから。
(もし私が躊躇ったら別の奴に頼むなんて。やっぱりどうかしているな…)
自分の問題に他人を巻き込むなんて。
私は自分の未来で、晋助の未来を奪うワケにはいかない。
この先私が行く道に、無関係なアイツを巻き込むわけにはいかない。
私が、吉田松陽の弟子でいられるのは、今だけだ。
サァ~
風で葉桜の葉同士が擦れ合う音が優しい。
三味線の特徴的で甲高い音色も好きだけど、自然の声というのも風流があって好きだ。
窓の外をずっと眺めた。
「正直、アンタが羨ましいよ…晋助」
アンタなら、憎むべき相手を殺すことが出来る。
しかし私は医師だ。本来、人の命を無下に奪ってはいけない立場にある。
激昂して私情で動いて殺すなんてなおさらだ。
戦のためとはいえ、もし自分の一族をこの手で始末すれば、私は医者じゃなくなる気がする。
母や仲間の復讐のためとなれば、医者以前に、私は私じゃなくなるかもしれない。
“あの人”から、みるみる遠ざかってしまう気がする…