第13章 青い髪、赤い血
俺が気にかけるのは「戦に必要な軍医だから」か、それか「幼なじみだから」とか、コイツはそんなことを思っているはずだ。
「……ぃ」
だが、言えるわけねェな。
本当は、「お前のこと惚れてるから護りたい」なんて。
「…ぉ…ぃ」
そんな私情を持ってること知られたら、今までの関係が崩れそうで、言えるわけがねェ。
俺の気持ちがてめーの言う幻想なんかじゃねーことが知られたら、コイツは何て思うか…
「重い…」
「!」
雅は高杉の胸板に押しつけられて、息ができなかった。
「わ、悪ィ…!」
雅を放した。
「私を窒息させるつもりか?」
明らかに怒っていて、いつものような近寄りがたいオーラを放った。
「す、すまねェ」
雅はりんごのお皿を高杉に渡した。
「悪かったらと思っているなら、これを片付けてもらってもいいよね?」
「あ、ああ」
雅は昨日の毒にやられて、一応安静の身であるから、言われなくてもするつもりだった。
そもそも、部屋で絶対安静を言い渡したのは高杉自身だ。
「他に俺に頼み事あるか?」
部屋を出る前に雅に確認した。
「…さっきの話だが国をひっくり返せば、私の母の罪を帳消しに出来るって話、本当にそう思う?」
雅は高杉が言ったその話に、非常に興味があった。
自分は母親の病気を治せず、死なせてしまった後悔がある。
そして死んだ後も、母は汚名として現世に残ってしまった。
その汚名を背負って自分はこの先生きていくんだと、松下村塾にいた時もずっと思っていた。
だから、誰かに自分の素性を知られたくなくて、過剰な交流をしなかった。
母が罪人であることを知られ、それで母が悪く言われることが、我慢できない。
私は何を思われてもいい。けど、あの人の名誉をこれ以上傷つけたくない。
そう思っていた。
でも、もし国が変われば、いや変えれば、母親の名誉を取り戻せる。
そんな希望の光を見出したのは、まさか高杉とは。雅は思いも寄らなかった。
そして同時に、血の宿命を背負うことになる。
「……もしそうなら私は、幕府側についている縁者を殺すことになるだろうな」