第13章 青い髪、赤い血
これは余談だが、古語の1つで「かなし」という単語がある。
それを漢字表記にすると、“愛し”と“悲し”の2つがある。
何故この対極にある2つの感情を、同じ言葉で表すのか。
それは、この2つは対極でもあり、似た感情であるからだ。
愛を失えば必ず悲しみが伴う。
愛を知っているからこそ、悲しみを知る。
両者とも、自分の手には負えなくなるほどの切ない感情でもあるという共通点から、同じ“かなし”なのだ。
「私は母を失った辛さを知っている。だからアンタと一時会わなくったって、どうってことないさ。アンタもそうだろう」
「そう…だな」
高杉は複雑な気持ちになった。
もし「寂しい」と言ってくれたら、どれだけ嬉しかったのか。
そんなことを考えている自分に、嫌気のようなものを感じた。
俺がここにいるのは、戦に勝って先生を取り戻すためだ。
だから、そのためには余計なものは必要ない。
雅の受け売りだが、余計な私情は必要ないと、そう思ってきた。
なのに、日に日に増して、雅に対する想いが強くなっていくことを、足のつま先から頭まで体で実感する。
雅を見かければ、自然と目で追っちまう。
他の隊士がアイツのことを噂すれば、耳が敏感に反応しちまう。
責務よりもそんなどうしようもねェ感情に振り回される自分に、嫌気がさしてしょうがねェ。
こんなに思い悩むもんなら、始めからこんなお荷物、芽生えなければ……
「晋助?」
さっきからフリーズしている高杉を不審に思って、雅は自分より身長の高い高杉を見上げて、声をかけた。
「……」
ギュ
「!」
高杉は雅を抱き締めた。
「どうしたの?」
それに全く動揺せず、抵抗することもなく、再度聞いた。
抱き締められているから高杉の顔が見れず、落ち込んでるのか分からない。
(……受け入れもせず拒みもしない。お前は本当に、何も感じないんだな…)
抱きしめる力を強めた。
雅はよく俺に、鬼兵隊を最優先に考えろと言う。その通りだ。
私情に振り回されて、責務に集中できず戦の先導に支障をきたせば、コイツは俺を見限っちまうかもな…
そんなこと思ってる俺は、やっぱりコイツに嫌われたくねェんだな。