第13章 青い髪、赤い血
「?!。嘘…だろ…」
「ああ嘘だ。アンタが言ったからそのお返しだ」
『アンタが今まで私に嘘をついたことがあるのなら、私にもその権利のストックはある』
さっきの雅を思い出した。
(はめられた…)
しかも、親父を殴ったらOKだ?
嘘じゃなったとしても、そうすりゃ破談確実だろ?どんな条件だ?
少女漫画の欠片もない展開だと高杉は思った。
「何てね、生きてるかも分からない人を殴れなんてどうかしている」
「いやそこじゃねーだろ。父親殴ったら嫁ぐなんて言う奴この世界のどこにいんだ?」
「だから嘘だ。そろそろアンタも行ってくれ。私はもう寝るから」
雅は病み上がりで喋り疲れてしまった。
「もうそんな時間か」
高杉は立ち上がった。
「……アンタが来るのは今日で最後か」
しばらく2人の間に沈黙が続いた。
この場では、おなごの部屋に入ことは風紀を乱しかねない。
周りの隊士の目もあるから、鬼兵隊の総督である高杉を、これ以上留めることができないのは仕方のないことだ。
今回が最後だから、雅は今晩ガラじゃない三味線を披露した。
「もしかして寂しくなるか…?」
高杉は冗談混じりなことを聞いた。
ぶっきらぼうな雅に限って、「何言ってる?自惚れか?」と聞いてくることは予想できた。
(まるで銀時みてーな低レベルの口説き方だな。こんなこと言って恥ずかしくねーのか俺?)
「……アンタとは明日も会えるから、そんな感情はない」
やっぱりな…
「それに、本当の“寂しさ”っていうのは、
いつも自分のそばにいてくれた大切な人に、二度と会えなくなることをいうんだよ」
「!」
雅はまるで自分が体験したことがあるような口振りだった。
さっきの話の流れからして、それは明らかに自分の母親のことを暗示していた。
「お前…」
「寂しいってことは、その分誰かに想いを寄せていた証だ。それが、親子としてか、兄弟としてか、師弟としてか、仲間としてか、恋人としてか。その形は十人十色だが」
最初から孤独だった者には、寂しいのが当たり前になってしまう。
だからこそ、人から与えられる愛情を知っている者が、皮肉にも“寂しい”という感情を知ることになる。