第13章 青い髪、赤い血
「私は母親のようなロマンチストになるつもりもない。そして、弱い体を引きずりながら、自分の正体を隠してまで私を護ろうとしてくれた母の思いを、踏みにじるわけにはいかない」
「お前…」
高杉は思った。
もしかしたら雅の母親は、自分のことを責めていたんじゃないかと。
自分がやった行いで、娘が生まれてきてくれたと同時に、娘を罪人の子に仕立て上げてしまったことを、後悔していたのではないかと。
雅は母が護ってくれたことを無駄にしたくないと、だからこれからも独りで生きていく道を選んでいる。
しかし雅の母の思いは、そんな娘の姿を見たいわけじゃない。
どっかに嫁いで、子どもを持って、幸せそうに暮らす姿を、本当は見たいのではないかと。天国からでも。
「国が変われば、全てが変れるんじゃねーか。お前も」
「え?」
「俺達がやってることは、松陽先生を助けるだけじゃねェ。あの人を否定したこの国を根から叩き直すことだろ。そうなれば、お前にも居場所が出来るはずだ」
戸籍がなければ住民票も作れない。
しかしこの国のシステムを変えるほどの強い力を持てば、国のあらゆる法も改変できる。
身内に攘夷志士がいて国賊と揶揄される者達も、戦争孤児も。居場所がない弱い者達に、居場所ができる。
この戦は、天人にひれ伏す弱い国と弱い者を救うための戦でもある。
「それに、国の刑法も好き勝手できれば、てめェ母親の罪も帳消しにできるんじゃねーか?」
「!!」
雅はハトが豆鉄砲を食らったような表情へと変えた。
そんなこと、考えたことがなかった。
母だけじゃない。“あの人”を…社会的に殺した国なんて、どうなろうとどうでもいいとばかり思っていた。
私の大事な人達の名誉を傷付けた幕府なんて。
正直、憎悪に似たような感情を持っていた。
実際にあの人達を罪人に仕立て上げた張本人、徳川定々に。
松陽に出会う前から、ずっと…
だけど、そんな絶望の源をうまく行けば希望の源に変えられるかもしれない。
桂は新しき国を作り上げれば、官軍になることができると踏んでいるが。
(晋助…そんなこと考えていたのか?てっきり、松陽を救うことだけしか考えていないと思っていたが…)