第13章 青い髪、赤い血
「…“辛い”か。辛い思いというより、不便な思いの方が正しいかな」
自分は身分を悟られまいと、独りで過ごしてきた。
名前を聞かれても、出身を聞かれても、「お母さんはどこだい?」と聞かれても、何も答えることはなかった。
問題は、これから生きていくにあたってだ。
身分を隠してでは、出来ることは限られてしまう。
皮肉にも今の時代、特に資格は無くても誰でも医師になれるから、私は名乗れる。
だがそれは、これから変わりゆく国の世には通用しなくなる。
そんなずさんなシステムは大きく改変されるだろう。
そうなれば、私は…
「アンタは言わないの?「俺を騙していたのか?」って」
「!」
騙す?俺を?何のことだ?
訳が分からなかった。
「母方には幕府の役人かその縁者もいる。私の母の家系が幕府と密接な関係にあることを、今まで黙っていた。アンタにとって幕府は松陽を奪った敵で、誰よりも憎いはずだ。そして、戦場にいる幕府軍の中には私の縁者がいるかもしれない。何より私には幕府側の血が流れている…裏切り者?とか思わないの?」
幕府軍に反乱軍の情報を流すスパイがいるとすれば、私が一番怪しい。
氏のことも母のお家のことも、ずっと言い出せなかった。
言えば、松下村塾の弟子ではなくなってしまう気がしたから。
たとえ縁を切られようと、独りになろうと、必ずこの戦で目的を果たすと、そう誓ったが。
(もし、私の正体が幕府に露見すれば、幕府は間違いなく私を真っ先に殺すだろう。そこで晋助たちが助けにでもくれば……でも、それだけは…)
自分の都合で、仲間の血が流れるのはごめんだ。
もう、自分のせいで誰かが死ぬのは、見たくない。
「……血だと?てめェに何色の血が流れてようと、俺ァそんなのどうでもいいね」
ガシッ
「?」
高杉は雅の頭に手を置いて撫でた。
「何、のマネ?」
「お前、恨んでるのか?」
「え…」
「自分が不便な思いしてるのは、母親が罪を犯したからだと、母親を恨んでんのか?」
「……難しい。確かに、母親の罪が無ければ、違う道もあったかもしれない。でも、母親が罪を犯さなければ、私は生まれてもなかった」
雅は複雑な思いに駆られて、適切な答えが出せなかった。
「…なら質問を変える。お前は、自分の母親が好きか?」