第13章 青い髪、赤い血
(おかしな話だ。死神と畏怖され呼ばれてる奴の母親が、実はロマンチストで罪人になってでも恋路を貫き通した奴なんて……)
母のお家は母を面汚しだと絶縁した。実の娘なのに。
なのに、そんな環境で育った母は自分が受けたこともない親からの愛情を、私に注いでくれた。
「父と母がいなければ、今の私はいない。でも父と母の罪があるから、私は今まで誰にも素性を明かしたことはない。母が昔、私に氏を誰にも明かすなと言ったのは、自分の名家の支配力を恐れていたんだろう。母の名家は、幕府の中枢と深い関わり合いもあって幕府の後ろ盾もある」
「!!」
高杉は声が出そうになるほど驚いた。
それはそうだ。何故なら今自分たちは攘夷志士で、その幕府を打倒するために戦っているのだから。
雅が今やっていることは、幕府だけの裏切りだけじゃなかったのだ。
「……そろそろ喋って“いいよ”。喋り疲れたから」
「……雅。お前…」
聞きたいことが山ほどある。でも何から先に聞けば分からなかった。
話を聞く限り、雅は複雑な環境で育ってきた。
母親が名家を裏切ってその男と一緒になったことで、雅は犯罪者の子というレッテルを貼られた。
でもそうしなければ、彼女が生まれていなかった。
雅がそんな業を背負いながらも、いつも自分のそばにいてくれた。
自分は彼女の事情も何も知らず、松下村塾では雅を不気味な奴と思ってしまった。
アイツは、好んで独りでいるわけじゃなかった。
『誰かと関わると不安になる。だから独りの方が好きなんだ』
あの時、雅が夜独りで泣いていた理由も、その翌日言ったあの言葉の意味も、約8年の月日を経て、ようやく理解できたような気がした。
「辛い思い…してきたんだな……」
高杉が雅の長い話を聞いた後、最初に出たのはそんな言葉だった。