第13章 青い髪、赤い血
「母さんはよく言っていた。『父さんがいなければ、自分は生きたまま死んでいた』と」
今でも忘れない。
母が父親との出会いを話した時、2つの顔を露わにした。
1つは、父と出会えた奇跡を心の底から良かったと思う顔。
もう1つは、その以前の自分の置かれた状況を思い出して吐き気を催した、絶望の渦に呑まれていくような顔。
『お母さん!!?』
私は母の手を握って背中をぽんぽんと叩いた。
『私はここにいるよ。父さんもじきに帰ってくる。何も怖がるものなんてないよ』
母は「そうよね」と私の頭を撫でた。
煙管からゆらゆら上がる見慣れた煙と、嗅ぎ慣れたにおいで、自然と心が落ち着く。
その背景の葉桜もまた、私にとって奥深い。
「要するに母は、惚れた男と駆け落ちしたんだ。許婚を切り捨てて自分が選んだ人と歩く道を選んだ。母はたった1人の男のために、自分の人生を棒に振った」
その後もちろん騒ぎになり、母を攫った父は罪人となった。そして父の手を取った母もまた同罪に。
母は破門となり、自分の名前も性も身分も隠し、2人での幸せの生活が始まった。
懐妊が分かったことを機に、慎ましく形だけの結婚をした。
その生まれた赤子が私。
私は、不貞で生まれた子だった。
「これらはあくまで私が母から聞いた話だ。私が生まれる前、実際母に何があったのかは知らない。だけど、もし母が父と出会わなかったら、私はいなかった」
母は父のことを本当に愛していて、父がいる時もいない時もお構いなしに私に自慢した。
そして恐らく、母が私のことを愛してくれたのは、私が父親と顔がよく似ていたからだと、今では思う。
「当時10歳だった私は、そんな母のデキ婚話を聞かされた。恐らく、自分が病気でそんな長くないから、話しておきたかったんだろう」
母親は病で亡くなったことは、高杉はすでに雅から聞いていた。
「その時私は今ほどのおつむはなかったから理解できなかったけど、今なら分かる。身分違いの恋をして、お家をほっぽらかして夜逃げしたって。まるで少女マンガみたいな展開だよ。とんだロマンチストだ」
雅の声は段々と明るくなっていき、まるで笑い話のように話した。