第13章 青い髪、赤い血
「医者としても演奏者としても一流、か。お前みたいな女は、この世界を探してもいない気がするね」
「それくらいけったいってこと?」
「けったい?まあ珍しいっちゃ珍しいが、不気味なんてそんなんじゃねーよ。俺はてめーのそういう型のはまらねェ性分が気に入ってるだけだ」
「……酔狂な奴だな」
女は出産と育児が仕事だと言われる。
国を支える次の世代を産むのも女の務めで、そのためにも結婚は欠かせない。
嫁ぎ先が名家であれば、男子を産むという非常に重要な責任を課せられる。
逆に言えば、もし男子を産めなかったら絶縁される。
この時代の女はまるで、男のためだけに尽くす人間の皮を被った機械のようなものだ。
女が男がやるような仕事を、街中で堂々としていたら、誰もがそれを批判的な目で見る。
医者だとなおさらだ。
なのに雅はそれでも、医者であり続けることを止めない。
もしそうなったとしても、彼女だったら、逆に睨み返すかもしれない。
世の風潮に刃向かう、彼女のその強い精神を、高杉は誰よりも認めていた。
「ならお前は、自分がけったいだと思うから、誰かと一緒になることを拒むのか?」
雅には結婚願望はない。
それは、孤独が好きな彼女の性分だと思っていた。
けどもしかすると、自分がこの世でもイレギュラーな存在なのを自覚して、向けられるかもしれない非難に、その人を巻き込みたくないんじゃないかとも思った。
「……私の意志など関係ない」
「何?」
雅は三味線を片付けて、猫を窓の外に戻して、しばらく外を眺めた。
その後ろ姿は、何だかとても寂しそうだった。
「雅?」
呼びかけても彼女はこっちを振り向いてくれない。
「私の母さんは、世の風潮に刃向かったが故に、世によって犯罪者にされた」
!!!
高杉は思わず立ち上がって、目を丸くした。
風が吹いて、彼女の青い後ろ髪がなびいた。
昔、雅はこう言った。
『氏は…名乗らないことになってるから…』
「お…前……まさか…」
彼女は振り向いた。
・・
「それが、私が今まで自分の氏を誰にも言わなかった理由」
私の親は、“咎人”(とがにん)だった。
雅の脳裏をよぎったのは、母を含めた愛する家族の姿。