第13章 青い髪、赤い血
雅は三味線の弦を調節した。
「アンタとの約束、まだ果たしてないが今からでも遅くはない?」
「!」
雅は、ちゃんと覚えていてくれた。
ちょうど101P前の言葉を。
『時間があったら考えよう』
「……ああ、頼む」
猫は高杉の隣にちょこんと座った。
雅は左手にバチを持ち、右肩にかけるように三味線を抱えた。
そして1人と1匹のための演奏会が始まった。
近くの廊下にて、
(雅の様子はどうだろうか…)
貸した少女漫画のことも気になって、彼女の部屋へ足を運んでいた。
すると、甲高いのが特徴の三味線の音色が耳に入った。
(これは……高杉のか?)
高杉は娯楽として三味線を弾くことを、桂は知っていた。
しかし話を聞いただけで、実際その演奏を聴いたことはない。
いや。リクエストしてもそう易々とやってくれない。
(雅の部屋からだ。ということは高杉の奴、格好つけたくて…)
桂は部屋の外で待機して、密かにその演奏を楽しんだ。
雅の演奏の第一印象は、ハイテンポだ。
指先を滑らかに動かしていて、決して初心者の腕ではない。
何よりも彼女の横顔から発せられる集中力の圧が凄かった。
さすが多くの手術をしてきただけあって、手先の器用さも慧眼も人並みじゃない。
(これは、俺よりも上手いな…)
自分も三味線ができると言えなくなってしまった。
演奏が終わり、彼女は一息ついた。
「久しぶりに驚いたぜ。お前にそんな特技があったとはな」
彼女の演奏が聴けて、とても満足した。
部屋に入る前は、これが最後だと自分に言い聞かせて、少し沈んだ気持ちを引きずっていたが、今はそれを忘れるくらいの充実感を得られた。
何より三味線を弾く彼女は、生き生きとしているというか、手術の時とは違う緊張感がある。
人の命とその責任感を背負うのではなく、ただ演奏を楽しむ。
今みたいにただ三味線を弾くことよりも、彼女はいつも医者の自覚でいつも身構えている。
だから、いつもとは違う彼女の姿を見れたことが、何よりよかった。