第13章 青い髪、赤い血
フシャー!!
毛を逆立てて高杉を睨むのを止めない。
「?。今日はやけに機嫌が悪いな。晋助がそんなに気に食わないか。それとも、晋助が猫に好かれない体質なのか…」
猫は雅の膝の上から降りて、戸棚でカリカリ爪とぎし始めた。
「お、おい…」
高杉よりも先に雅は猫を抱っこして、戸棚を開けた。
「それは…」
戸棚から取り出したのは、先日見た雅の三味線だった。
「コイツは爪とぎしてたわけじゃない。どうやら私の三味線の音が気に入っているらしくて、いっつもああするだけだ」
それはずいぶん前の話。戦を始めたばかりで、雅の髪がまだ長かった時だ。
母からもらった三味線を何となく窓際で引いていた。
皆が向こうの広間で酒を飲み馬鹿騒ぎしてる中、彼女は夜の月を眺めながら、独りで余韻に浸かっていた。
風が吹いてきて、長い横髪が頬をくすぐった。
((髪が邪魔だな…))
ミャー
「?」
雅は窓の外を見下ろすと、声の主がお行儀良く座ってこっちを見ていた。
『猫?あ…』
見覚えがあった。
松下村塾で以前助けた子猫と同じ面影。
体は黒くて目は青い。
((あの時は生後3ヶ月ってとこだったから、アラフォーってとこか…))
ミャ~
さっきよりもなで声でこちらに話しかけてきた。
((人間相手なら言葉が通じて、吐き気や頭痛とか症状は分かるが、猫相手だと手がつかん))
見たところ異常はなさそうだが。
『……』
雅は何となしに、手に持ってた三味線を弾いてみた。
パランッ
ニャー
音に合わせて猫が声を上げた。何だか嬉しそうにも見えた。
パラン、パラン
ミャ~、ミャ~
合唱コン本番前の声合わせみたいになってきた。
((独りの方が気が楽だが、猫一匹ならいいだろう))
雅は猫を部屋に入れて、続きを弾いた。
こうして、小さな演奏会が始まったのである。
(そんなことがあったのか…)
「他の隊士で猫アレルギーの人もいるから、部屋から出さないようにしてるが。どうもコイツは私の部屋を保健室ではなくライブハウスと勘違いしている」