第13章 青い髪、赤い血
「まさかてめーに初恋があったとはな…」
「……初恋か。確かに記憶としてはあるが、あの時のような感情は今は湧き出ない。昔の私はただ妄想にふけていたガキだったってことだ」
この時高杉はある仮説を作った。
雅は医者。
彼女いわく、医者は人を救うためにいるのであり、己の本能や欲を抑えるから一層難儀な職務である。
しかし彼女の場合、その本能的な欲を抑えるのではなく、最初から全て捨てたのではないか。
彼女がいつから医術を身につけ始めたかは知らない。
けど少なくとも、小さい頃は小さいなりの恋をしたことがある。
彼女が今のように全く無関心がないのは、自分に言い聞かせているだけじゃない。
そんな妄想より人の命のほうが大事だから、自分の情を最初から切り捨てた。
人を救うために、人であることを捨てた。人間らしさを捨てた。
以前雅は、尊敬する師のことをこう言っていた。
・・・・・
『あの人こそまさに、本物の死神だったよ』
人間らしくない存在。同じ死神。
本人には絶対に言えないが、彼女に人間らしさがないのは、その師の影響でもあるのかもしれない。
皮肉にも愛する師によって、愛を感じなくなったのか。
全部ただの想像だから、本当かどうかは分からない。
(ん?)
よく見たら人間らしさ以前に、あまり元気がなさそうだった。
「お前…ちゃんと飯食ってんのか?それとも、昨日のケガで…」
あれくらい苦しんだ猛毒にやられたのだから、食欲を無くしたのか。それか食べちゃだめなのか。
「…食えなくはない。あと少し差し入れを頂いた」
雅は机の上に置いてある、んまい棒を指さした。
高杉は部屋のゴミ箱を覗くと、確かにんまい棒のゴミがあった。
「いやこんなん腹ァ満たされねーだろ。せめて粥とかりんごじゃねーのか?」
「アンタと同じこと思ったよ。けど持ってきてくれたのに難癖付けたら失礼でしょ」
それに桂も怪我人だから、お粥を作らせるのもりんごを剥かせる訳にはいかなかった。
「何か欲しいもんあるか?取ってくるが」
高杉は腰を上げた。
「アンタ戦帰りで疲れてるでしょ。いいよ」
「なめんな。そんぐらいの体力はあらァ」