第13章 青い髪、赤い血
「内容は悪くはなかったが、あくまでそれは傍観者としての意見だ。自分もそうなりたいと、望むことはないな」
「……」
高杉は何だが複雑な気分にかられた。
雅が“慕情”という感情に、最もかけ離れた存在であることは、ずっと前から知っていた。
周りに無関心だった松下村塾にいた昔よりも、人を“思う”気持ちはあるものの、人を“想う”気持ちはない。
家族や友人とは違う、別の愛の形。
その形が、雅の心にぽっかり空いている穴にはまることはあるのだろうか…
「一つ、聞いてもいいか?お前にとって先生は、
・・
ただ尊敬した人なのか?それとも……“慕情”に似た感情を持ったこともあるのか?」
「それは松陽のこと?それとも……」
「両方だ」
「……それはない。両者、人としては素晴らしかったが。先生と生徒の禁断の恋なんかPTA騒ぎだし、医者と医者との恋なんか少女マンガのベタな展開で、マジで「仕事しろ」って渇を入れるよ」
マンガの感想と似たようなものだった。
やっぱり雅には、“異性を好きになる”なんてことはなさそうだ。
高杉は戦のために雅に対する私情を抑えてきて、他の者にも変な気は起こすなと注意してきた。
でも心のどこかで少し期待していた。
雅は唯一自分のことを名前で呼んでくれ、2人でいる時、笑顔を見せてくれる。
戦が終わった後、もしかしたら……と。
こんなこと思ってる自分は本当は、他人の感情をどうこういう立場ではない。
人のことが言えないから、注意する度に申し訳ないとも思っていた。
(他の男を好きになることはないが、俺を好きになることもねェか…)
「じゃあ、誰かを好きになったことはねェってことか」
「いや、1人だけいたかもな…」
!!
それを聞いて高杉は驚いた。
「誰だそれ?」
「さあね。もう10年以上も前のことだから忘れた」
10年以上前。それは、松下村塾に入るよりも前のことを指していた。
となると彼女は8歳とか、まだ幼かった頃。
子供の恋愛は幼稚で、その本質を理解しているわけでもない。ごっこ遊びみたいなものだ。
でも、少なくとも雅は、昔はちゃんと“想う”心があったということだ。