第13章 青い髪、赤い血
高杉は想像したくなかった。
でも、普段無口で表情をあまり変えないから思考が分かりづらいが、雅は人間だ。
食欲も睡眠欲も、そして性欲を持ってもおかしくはない。むしろそれこそが人間だ。
「んな訳ないよ。あくまで、襲わない保証なんてないって話だ」
高杉はホッとした。
「医者が患者の体に欲情したら、医師免許剥奪どころか切腹騒ぎだ。そんな不祥事起こした場合、腹切る覚悟もできてる」
雅はそれほど、医者という職に誇りを持っている。
持っているからこそ、この時代の“医”というものは未熟だと実感していた。
理由は技術や知識の話ではなく、そのシステムだった。
医者には、幕府に仕える幕医や町医者、腕のない医者はやぶ医者やたけのこ医者と呼ばれている。
しかし、医者になるのに特に資格など必要はなく、優劣関係なしに誰でも名乗ることができた。
資格が規定されてない故に、志す理由が「人を救いたい」という全うなものとはかけ離れた別のものである者がいた。
それは、女の体を触れることができるという大義名分を得るため。
医者も人間だから、職務という表の皮を被って裏ではただ欲を満たすためにやっている。
雅はそんな輩に心当たりもあった。
「医者っていつも、性別問わず患者の体を診る。ハナからそれ目的の奴もいれば、脆弱な魂が故に性欲には逆らえなかった奴もいる。医者ってのは、アンタが思っている以上にハードな仕事だよ」
高杉は知らなかった。
雅みたいな女医はイレギュラーなのは知ってたが、レギュラーである医者の裏にはそんなタブーなことが。
「アンタ達はそれを見越して、私を軽蔑するんじゃないかって思っていたが」
「!」
雅は医者である自分が、そんな風に見られているのではないかと思ったこともある。
特に男しかいないこの中だ。男目当てで体に触れたりすると勘違いされる。
「んな訳ねェだろ」
「なら良かった」
他の医者のことは知らないが、少なくとも私の“せんせー”はそんな下賎な人じゃなかった。
晋助がそう思ってくれるのは、私に与えてくれたその人もそうだったからだ。