第13章 青い髪、赤い血
「雅…」
雅はゆっくり顔を合わせ、俺は思わず後ずさりしてしまった。
彼女は自分の無残な姿に対して、声を上げるどころか全く動かない。
お面で表情も分からない。いや、分からなくて良かったのかもしれない。
(あ、あの男たちは一体……)
俺は男たちのことも不気味に思った。雅とは様子がまるっきり正反対だ。
無傷なのに雅のことをひどく怖がっている。
「おい!これはどういうことなのだ!」
「ひぃぃい~!く、来るな!!化け物!」
化け物?
男たちはこちらの呼びかけにも全く応じず、明らかに正気を失っている。
「雅!小太郎!!」
男たちはやってくる誰かの声に驚いて、その場を去ってしまった。目的も何も言い残すこともなく。
駆けつけてきたのは松陽先生で、俺と雅が帰りが遅く不安になったのだ。
「せ、先生!雅が…!」
スッ!
え…?
松陽は手前の俺を追い越し、向こうの雅のそばへ行き屈んだ。
「大丈夫ですか?!怪我はもう……!?」
雅はお面を取って顔を見せて、首を横に振った。
「よかった……よ…かった…」
雅の着物が血で染み着いているのはお構いなしで、深く抱き締めた。
(松陽、先生…)
松陽は呆然としている俺に背中を向けて、全く動じていない雅の身を案じている。
その光景を見て胸の奥底がキュッと締まる。
松陽がこんなにも動揺して弱々しくなっているところ、初めて見た。
涙声になりながら雅の後ろ頭を抱える。いや、実際に泣いていたかもしれない。
松陽先生は松下村塾で、どの生徒にも分け隔て無く平等に接する人だ。
でもこの時だけは違って見えた。
まるで、本物の親子のようだった。
松陽が雅を抱き締める手は、我が子に向けるようなとても優しそうであたたかそうな手だった。
この時俺は雅と松陽の2人と俺自身の間に溝のようなものを感じた。