第4章 疲れたときほど甘いものはウマい
そして不思議なことはもう一つある。
この夜の雅は、いつもよりも喋っている。
戦では仲間の安否と敵を討つことしか考えず、無駄話もあまりしないコイツに限って。
いや、一番の謎は、何故かコイツが泣いていたこと。
自分を責め立てるような言葉も吐いて。
己を非情って言ったのは、もしかすると…
(フったばかりの奴がすぐにおっ死んで後ろめたさを…)
だがあれァヅラが言ったとおり、雅がアイツのために言ったことだ
この先どうなるか分からなねェ戦場だから、あえて心を鬼にしたんだ
雅は考えなしで、相手の想いに応えなかったんじゃねー
想ってるからこそ、この戦場で気持ちを受け取らなかったんだ
冷酷を装っても、雅は患者のことをいつも考え、俺たちの頼れる存在だ
俺はこの先どう転がっても、アイツを非情なんて思わねーよ
(あの人を俺たちから奪ったこの国がよほど非情だ。いや、非情以外の何物でもねェ)
高杉がそう言い切れたのは、10年前にある出来事があったからだった。
“寛政の大獄”
国は天人により危機に瀕した途端、敵側に寝返り、さらには国内で攘夷を掲げる排外運動を徹底的に叩き潰す方針を示した
同じ人間ではなく、異種族のよそ者の方についた
俺たちのような攘夷志士を片っ端から斬首刑にした
たとえ身内がいる奴でも
ああいう奴らこそ、本当の外道だ
高杉はそう思ってると、今度は雅から口を開いた。
「私はここにいたのは、眠れなかったからだ。普段なら10時前後に布団に入るが、何故か今日は寝付けず…」
(それで早寝早起きしてるのかコイツ?)
早寝早起きを心掛けていたことは知っていたが…
そういう理由で?ガキか…?
「それに……いや、なんでもない」
「また黙りか?はっきり言え」
雅は小声でボソッと言った。
「身長伸ばしたくて…」
「………」
雅は、高杉が銀時に体格のことでいじられてることから、気を遣って言わないようにしたのだ。
高杉は彼女の心優しい配慮で、微妙な空気になり、しばらく無言が続いた。
「…言いそびれたけど、アンタには前から感謝していたんだ」