第4章 疲れたときほど甘いものはウマい
「……」
雅が泣いてた理由が未だに分からない
「今回の死者に、親しかった奴がいたのか?」
「…いや、仲間が死ぬのはもう慣れている」
ヤクルコのゴミを眺めたまま、それからはなかなか口を開かない。
(いつもの黙りか?)
あの時、自分の姓を聞かれたときもそうだった
自分のことになるとしゃべらねェのは相変わらずだ
高杉はプイッと顔を逸らした。
聞いても言うわけがないか…コイツは…
「…平然とこう言う私を、世間では非情って言うんだね」
「!」
俺はその言葉に酷く反応し、手に持ってた空のヤクルコを落とした。
雅は俺に目を合わせず、夜空を見上げた。
「いや…聞く必要はないか。昔アンタとは色々あったし、私を良く思わない輩は、敵はおろか味方にも中にはいるしな…」
「お前…」
軍の総督である俺は、部下たちの会話の中でたまに雅のことを小耳に挟む
寺子屋でもコイツの人間味のない表情や姿勢に、奇々怪々と思う奴もいた
コイツと出会ったばかりの俺も、その内の一人だった
「私は松陽やアンタと出会う前は、仲間なんて概念はなかったし、そんなのどうでもいいと思っていた。
だから私が罵られるのは当然の報いだと、そう考えている」
脳裏に、松下村塾で過ごした記憶が少しだけよぎった。
確かに、始めの頃の雅はそうだったかもしれねェ…だが…
「仲間の死には涙一つ流したことはない私は…」
「自分を否定するような言い方は止めろ。お前は非情なんかじゃねェよ」
理性的に自分のことを語る雅に対し、高杉は感情的にそれを否定した。
非情?むしろこの戦自体が非情の塊じゃねェか
そんな中で、一人でも救おうとするお前の行動は、非情なんかじゃねェ
もしお前の言ってることが本当なら、
その手の震えは何なんだ?
雅の左手は、自分の着物を握り潰して微かに震えていた。
高杉はそれを見逃さなかった。
「てめーはただ、仲間の死を誰よりも早く乗り越え、前に進むことができるだけじゃねーか。医師のお前は、“冷静”が一番の十八番みてーなもんだろ」
まるでそれは番犬が吠えてるみたいで、彼女はそれを見て不思議と口が勝手に動いた。
「…アンタも、相変わらずだな」
彼女のその顔は無表情というより、笑顔の方に近かった。