第13章 青い髪、赤い血
「雅。そろそろ部屋に戻ったらどうだ?」
「!」
小さい頃に母親に聞かされた昔話にどっぷり浸かっていたから、桂に話し掛けられてビックリ。
「色々あって疲れただろう。お前は本来部屋で休まなければならないからな」
「…ああ、そうだな」
桂は自分の寝る場所へ行こうと、雅に背を向けた。
「雅。お前と先生は、本当にただの師弟関係だったのか?」
「?。何が言いたいんだ?」
「……すまん。今のは忘れてくれ」
桂は向こうへそそくさ行ってしまった。
(何を聞いているんだ。俺は…)
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回想
〈松下村塾〉
吉田松陽は、自分の部屋で書き物をしていた。
外から聞こえる小鳥のさえずりが気持ちいい。
蝉のうるさい鳴き声が聞こえてきても、自然と心が落ち着く。
最近は塾生も増えてきて、少し疲れることもあるがやりごたえも感じていた。
(しかし私からだけじゃない。同じ塾生同士で話し合うことで、自分たちだけで成長できる者もいる)
私が教えるのは、あくまで己の武士道を見つけるためのヒントに過ぎません。
私が彼らの行く先を決めるのではない。彼ら自身が決めるのだ。
そしてここにいる皆が立派に成長し、いつかこの門を去る時が来ると思うと、少し寂しいですね。
(果たしてその頃には、あの子達はどんな風になっているのやら…)
特に、銀時や晋助に小太郎。あの子達がずば抜けている。
剣の才能も、努力の才能も、悪ガキの才能も。
きっと大物になりますね。
(そしてもう1人。別の意味で特殊な子が…)
松陽は書き物を終えて、教室でお習字をやっている塾生たちの様子を見に行くことにした。
“あの出来事”から雅が、少しだけ変わりました。
それより前は、彼女がずっと剣の勝負で手加減をしていたことには、すでに気付いていました。
周りと話そうとしなかったのは、孤独が好きだからじゃない。あの子は少しだけ、不器用なだけなのです。
(不器用な子の気持ちが分かるのは、同じ不器用な子、ですかね…)
晋助には感謝しかありません。
最初のほんの些細なきっかけだとしても、あの雅を輪の中に引き込んだんですから。