第4章 疲れたときほど甘いものはウマい
現在
あの最悪なファーストコンタクトから、もう随分経った
何故最悪かというとあの時2人は…いやあまり思い返さない方がいい。やめとこう
あの後、私は坂本に頼み、医療関係のあらゆる物資を手に入れることができた
それも予想以上の量と高性能なものを
(流石、ボンボンは伊達じゃない)
金へのがめつさと声のデカさだけは誰にも負けないだけある
しかし医療が備わっても、こちら側の戦力が不利なのは変わらない
数だけで見れば“向こう”(天人や幕府軍)の方が圧倒的に勝っている
ヒュウ…
心地いい風がまた吹き、高杉は一息ついてから口を開いた。
「…お前に、言っておくことがある」
「?」
それは…
「鬼兵隊の…前にテメーに告白した奴が、天人に殺されて死んだ」
「…そうか」
雅は目を見開いたり驚くことなく、俺の静かに聞いた
さっき泣いていた時と全く違う、日常会話と変わらないように
(コイツ…)
だが俺たちは、場所は違えど目の前で仲間が死ぬ所なんて何度も見てきた
目の前の仲間を守れなかった
目の前の患者を救えなかったと
「戦は、死にに行くようなものだしね…」
雅はそれだけを静かに呟いた。
コイツのことを、「いつもかっこよくて何度も傷を治してくれる優しい人」なんて言ってたな
その様子から、野郎は雅に好意を抱いていると見抜いていた
しかし、先日雅はソイツを振った
その理由は俺でも分かる
それは恐らく…
「…確かに仲間思いのいい人だった。アンタと同じ。
でも、人の好意を受け取るなんて行為は、この場では無意味に等しいよ」
彼女の発言は一見冷酷あるが、言うことは正しかった。
いつ死んでもおかしくない戦場。
互いに命の駆け引きをして、この戦に臨んでいる。
生き残れる保証もないのに、そんな約束をしてしまうのは、無責任でもある。
彼女の言うとおり、戦とは死にに行くようなもの。
漫画でもある、恋人が死んで悲しむ悲劇のヒロインみたいになるのも、彼女はまっぴらゴメンだった。
「誰でも死ぬのは辛いことだ。特に…未練を残して逝くのは」
彼女はいつもと変わらず平静な態度だ。
仲間の死に全く動揺しないのに気になりながらも、高杉はようやく一番の疑問を聞いた。
「さっきは、何で泣いてたんだ?」