第13章 青い髪、赤い血
雅は昨日、高杉の背中で弱っていながらも、川魚たちが元気に泳いでいる姿をちゃんと見ていた。
((あー、焼き魚が恋しい))
そんなことを考えていて、川が汚染されてることを全く疑っていなかった。
もし敵が使ったのが、全ての生物に害を及ぼす劇物だったら、魚も死んで川に浮かび上がっていたはずだった。
となるとこの毒は恐らく、地球産ではない宇宙産の未知なる物質とみて間違いはない。
良く言えば、魚には優しい毒で、悪く言えば、人間には厳しい毒だ。
どうやら天人の悪知恵や兵器は、この地球の型にははまらないほどの力量らしい。
「そんな……まるで俺達を殺すための化学兵器じゃないですか?」
「その通りだね。敵が毒を川に流していたところ、偶然私が居合わせてしまった、というところだろう」
でも、本当にラッキーだった。
もし私が薬を切らしていなかったら、山に行くことはなかった。
もし晋助が駆けつけてくれなかったら、毒に気付けなかったかもしれない。
偶然に偶然が重なって、今こうやって被害を抑えることができた。
(晋助には、デカい借りができてしまったってところか…)
そういえば、思い出した。
あの時私は、敵の目くらましのために、川に入ったんだ。
それでも、私は人一倍毒に慣れた体質だから、少量が口に入ってもまだ症状はでなかった。
問題はあの後、敵に首筋を斬られたことだ。
傷口に毒入りの川の水が入り込んで、中毒症状がさらに悪化したんだ。
『浅はかな』
(敵が言っていたのは、そういうことだったのか)
でも敵の方も、自分から迷いなく川の中へ入っていった。
毒に犯された相手でも、相打ち覚悟でも仕留めようとしたんだな。
今更ながら、その勝利への執着にあっぱれと思う。
それと、晋助が川に入らなくてよかった…
晋助の治療に、あの川の水じゃなくて、事前に持っていた水筒の水を使ってよかった…
「では雅さん。4日間、川へ行くのも止めた方がいいのですか?」
「うん。川魚も絶対に穫らないで。よゐこ濱口になりきって“とったど~”ができないのは残念だが。
魚たちには無害だとしても、その身には劇物が入っているから、その魚を食べた奴は水を飲むよりも毒が深刻化するよ」
それは、“生物濃縮”と言われるものだ。