第13章 青い髪、赤い血
何とか被害が出る前に水の処理を終わらせて、皆はホッと胸をなで下ろした。
「急に呼び出してすまなかった。協力感謝する」
雅は頭を下げた。
「いえいえとんでもない!感謝するのはこちらですよ!雅さん!」
「そうですよ!姐さんのおかげで被害が出なかったのですから」
「毒にいち早く気付くなんて。さすがは俺達の軍医雅さんだ」
「敵がこんな姑息なマネをするとは」
「もし手遅れになってたら、どれだけの奴がやられていたことやら…」
(一斉に言われても…)
誰か聖徳太子を呼んできてくれ。
(でも確かに、戦場で直接襲いかからず、裏で川に毒を流すなんて…)
天人の芸当じゃない。あの山にいた天導衆がやったのは明白だ。
天導衆があんな危険な毒を持ってることを、自身の体を張って知ったから、それで勘が働いた。
私にあんな毒を食らわせたから、それが仇となったってところだ。
幸いあの水には誰も手をつけておらず、私以外の中毒者は出さなかった。
(私の毒の経験値がこんな形で役立つとは…)
「はーい。じゃあ皆持ち場に戻れ。高杉と辰馬の軍隊が帰ってくる頃までに、夕食のおいしい煮物を作らなければならないんだぞ」
桂は今夜の夕食の献立を考えていた。
「でも桂さん、貯水もなく川の水もまだ安全じゃないとなると、食事だけでなく洗濯や便所も…」
『!』
皆ようやくことの重大さに気付いた。
昨日汲み上げた水は全て捨てて、貯水しようにも川にはまだ毒が混濁している。
たとえ中毒者はいなくとも、水の枯渇が問題になる。
敵の狙いは、我々の生活用水を無くすことでもあったのだ。
「じゃ、じゃあ坂本さんに頼んで、水を卸売りしてもらえば…」
とは言っても、戦の資金の工面は、今もなおあまり余裕とは言えない。
たとえ一時でも渇きを凌げても、すぐに無くなってしまうのは時間の問題だ。
「雅さん…」
雅はさっき汲んだコップ一杯を手に取った。
「…この毒からすると、川が元通りになるには、あと4日くらいか」
「4日、ですか…」
「少なくとも、これから4日間は節水生活ってことになるな」
雅はこの毒について詳しく話した。
恐らくこれは、人間にしか効かないように作られていて、魚などの水中で暮らす生物には無害のものだ。