第13章 青い髪、赤い血
桂も薄々分かっていた。実際高杉にも昨日話したばかりだ。
雅の優秀すぎる術は、いずれ幕府にも目を付けられるかもしれないこと。
そして今分かったのは、
雅は師から“受け継いだもの”を大切にしていることと、
この世で一番の天敵である幕府から、それを護りたいと思っていること。
今の幕府は、己のプライドや伝統を簡単に捨て、天人に迎合し言いなりになる哀れな犬に成り下がっている。
そして、天導衆という訳の分からない化け烏の人形となっている。
操る側も操られる側も、同罪の畜生ども。
国が作った利己的な価値観や法に背く者は、何者だろうがところかまわず処刑する。その声にすら耳を貸さず。
吉田松陽もその1人だ。
何より雅にとって、大切な人を
・・・
二度も奪った存在であるから、彼女がそんな輩を毛嫌いするのは当然であった。
(それはそうだ。松陽先生を奪ったこの国を憎むのは当たり前か…)
そんな国は信頼できない。
なら自分がこれから成すことは、雅のためになるのだな。
天人どもを退き、幕府を転覆させ、新しき国を打ち立てること。
国が変わればきっと今よりも悲しむ者も無残に殺される者も減る。
天人どもに迎合しなくてもよいくらい強い国になれる。
そうすればきっと彼女は、今よりもよっぽど笑顔になる機会が増えるかもしれない…
長い因縁の重しから、解放できるかもしれない……
「お前は幕府に医術を奪われたくない。なら今後、戦に赴くのは控えたらどうだ?昨日みたいな襲撃が再び起これば、また厄介なことになるかもしれん。敵がお前の存在に勘付くのは時間の問題だ」
「……つまり、アンタたちに頼れと?」
「ああ。これはお前のためにも言っている。お前は絶対死んではいけない。これからの世のために。そしてそれを築き上げる今も」
桂は「幼なじみだから」だけでなく、雅の今後のことも考えていた。
そして彼女も、桂の言うことに十分納得もできた。
救うだけでなく護りたい気持ちもあるが、救う術を奪われたくないという気持ちもある。
奪われたらシメーだ。
自分だけが護るのではなく、仲間に護られるのも必要。そうやって支え合うのが人なんだ。
「…そうだね、ありがとう」
こうして雅は、仲間を頼ることを覚えたのだった。