第13章 青い髪、赤い血
戦に出るってことは、たとえ現世に未練を残すとしても死ぬ覚悟をするってことだ。
ここにいる者達は、国のためにその身を捧げるという建前と生きて幸せになりたいという本音のジレンマを抱えているのが大半だろう。
桂や辰馬の言う通り、もし私が人並みの幸せを望むただの小娘だったら、最初からこの戦に出なかったかもしれないな。
誰もが死ぬ怖さや己の弱さと戦いながらここにいる。
私はそんな怯えた者達の気持ちを少しでも和らげることも、軍医である私の責務だと考えている。
まあ最も、医療カウンセラーなんて元々、話し下手な私には向いていないが。そういうのは辰馬が向いている。
(厳しいことをいうと、最初から剣に迷いがある奴から死ぬのがここ戦場だ…)
自分は本当はこの場所にいるべきじゃなかった。やっぱり故郷に帰りたい。
そんな未練を残している奴がまともな戦い方ができるとは言い難い。
だから私は、たとえこの地が私の墓になろうとも、後悔しないようにしている。
戦に出る前から、“あの目的”以外、余計な願望を持たないようにしてきたんだ。
「だが、お前には“転職”するの必要はない最高の“天職”があるではないか?」
桂はさっきのダジャレがまだ懲りないようだ。
しかし思った。
雅には自分たちよりもとっておきの才能がある。
“人を救う”という需要てんこ盛りの才能が。
「この先、国がどうなろうとも、お前の力は必ず誰かに必要とされる。お前ならきっと、この先うまくやっていけるさ。自信を持て」
彼女は確かに無愛想だが、目に見えない遠回しの優しさを持っている。
表情や口調では表さないが、その医術を通して伝えられることができる。
彼女なら、この先波乱な人生が訪れようとも、その強さや孤高さで乗り越えられると、桂は仲間としてそんな確信を持っていた。
「……そうだね。私はこの先、自分なりにやってくよ。ただ…」
雅の雰囲気が鋭くなり、はっきりと口にした。
「この国が変わらない限り、自分の魂よりも重いこの術を明け渡す気はないよ」
目つきも一層鋭くなっていた。
その場にいた桂は、よりその言葉の重みとその覚悟を実感した。
「お前…」
つまり雅は言いたいのは、
“たとえ死んでも渡さない”