第13章 青い髪、赤い血
「隊の中にお前に好意がある者がいる。お前も以前告白されただろう」
「……」
昨晩も似たようなこと話したな、と雅は思った。
私はそれを『惨憺たるこの戦場の環境下で見るただの幻想』と言った。
女は私1人だから仕方ないと。
男子監獄に1人女囚人がぶち込まれたら、誰だって欲情してしまうに決まってる。
監獄逆ハーあるあるだ。
「そこでだ。お前には医者のお前は患者の心に寄り添うことも大事にしているだろう。ならこの作品を通じて、“好意”とは何かについて学ぶのはどうだ?この作品には、友情の間に恋心が芽生えるシーンもある。きっとキャラクターたちの気持ちが汲み取れるはずだ」
「……」
さっきまでふざけ上手の桂だったが、説得力があった。
人付き合いが苦手な自分が人の気持ちを理解するのには、無理に付き合うのではなく、“作品”という手段を使うのもありかもしれないと。
「ああ、『好意』といっても『行為』は入ってないから安心しろ。これはR18じゃないしTLでもないからな」
「言われなくても表紙だけ見れば分かる。それに医者の私はモノホン見たことあるから、今さら絵を見たって」
松下村塾で、銀時達が春画を見て鼻血を出していたが、私は何とも思わなかった。
正直に言うと、実物と少し形や大きさが歪だと思った。作者は童貞だなと分かった。
医者は男女問わず患者の体を知り尽くさなければならない。
自覚はあるのだがただ、以前、辰馬に似たようなことを悟られたのは癪だった。
「とにかく、今日中には全部読めないが、読むだけ読んでみよう」
一応桂から、恋愛的な好意ではなく、思いやりの好意を受け取った。
「うむ。母親殿のためにもな。それに嫁入り前の娘が、無茶ばかりしてはきっと成仏もできないんじゃないか?」
ドイツもコイツもそんなに私を嫁がせたいか。
雅はため息をついた。
幼い頃、母親とはお嫁さんについて話したことはあった。もちろん、現実味のないただの空想として。
そして今では、昔よりさらに現実味のない空虚な空想になっている。なぜなら、
「私達は国に逆賊と呼ばれてるから、国を変えない限り、私達にそんな明るい未来なんてない。お先真っ暗だ。戦に出ると決めた時点で、私にはそんな幼稚な野望なんてない」