第13章 青い髪、赤い血
「……雅。余計な詮索かもしれんが、教えてくれ。なぜそこまで、戦場に出ることにこだわる?
お前が一番よく分かっているはず。軍医であるお前はいるべきではないと、参加する前から分かっていたはずだ」
『状況判断のため』だと聞かされて、桂もしぶしぶ承諾したのだが、未だに引っかかることがあった。
彼女には何か別の、自分の心の内に秘めた執念か何かがあるような気がした。
何故なら彼女が戦に出たいと頼み込む時、普段では考えられないくらい必死になるから。
『ヅラ、頼む…』
表情が強張って、口調もより感情で。
「……それは、この軍の将としての質問?それとも、同門の友としての?」
「両方だ。少なくとも、俺はお前を、共に学び戦ってきた友だと思っている。友としてお前の気持ちを聞きたいだけだ」
松陽が気にかけたように、自分も彼女を気にかけたい。彼女の腹の中を少しでも理解したい。
自分に人を救う術はないから、せめてそれを持っている彼女の気持ちに寄り添うくらいのことはしたい。
昔は出来そうになかったが、今ならできる。
「……確かに、戦で手柄を取りたいがために粋がってる犬と見られてもおかしくはない。あの世にいるあの人も、そんなこと望まないかもしれない」
彼女はぽつりぽつりと話し始め、桂は緊張が高まった。
「私が戦場にこだわる理由。心当たりはある」
「それは何だ?」
雅は窓の外の桜から、桂の瞳に目を向けた。
「……私はね、以前、1人の患者を受け持ったことがあるんだ」
それから彼女はこう続けた。
“まだ半人前だったけど、私はその患者の治療に専念した”
“治療のかいあって体調が大分良くなって、充実感もあった”
“「私はこの人を救えた」って”
そして雅は明らかに表情を変えた。
“でもねその人。殺されたんだ…”
「!!」
桂も表情を変えた。
それを知ったとき、脱力感でしばらく動けなくなった。
その時の感情は、色んなものが混ざって言葉ではうまく表せなかった。
憎悪? 哀愁? 憤怒? いや、少し違う。私が思ったのは…
“救うだけじゃだめだった…”
護らなきゃ、意味がなかった。