第13章 青い髪、赤い血
「……さあどうだろう。今や、国に仇なすこんなボンクラ娘に育って。あの世で叱りつけているんじゃないかな?」
もし母親が生きていれば、私は松陽先生や皆に会うこともなかったし、戦争に出ることもなかった。
自分を想う家族がいるなら、こんな自分の命捨てるような場所にいるわけない。
私がここにいるのは、家族とは全く別物の繋がりを護るためだ。
「そのうち、天からげんこつの拳でも降ってくるんじゃないかな」
げんこつ。松陽先生に叱られたときもそんな響きがよくあった。
桂は懐かしさで口元が微笑んだ。
「そうかもしれんな。だが松下村塾にいたときから、お前は銀時や高杉のような悪ガキに比べたら、チワワのように可愛いものだ。それにたとえボンクラでも、母親殿はあの世でもきっとお前を心配してるだろう。だから…今回のようにあまり無茶はするな」
ようやく本題に入ることができた。
『雅は無茶をしている』と、昨日高杉も念を押していたから、この話はどうしてもしたかった。
彼女は治療だけでなく戦いに出てるから、その働きや披露も人一倍だ。
「…晋助に聞いたのか?」
「ああ。お前の様子を見てほしいと頼んだのはアイツだ」
あのお節介焼きめ。
声はDI○のくせにスピ○ドワゴンくらいお節介焼きだ。
銀時やヅラには全く冷たいのに、なぜ私ばかりに世話を焼くんだ?
焼きすぎて灰になるくらいに。慈愛の女神像にはらわた刺されるくらいに。
「ヅラ、何でアイツは私を気にかけるんだろうか?」
「それはそうだ。高杉はお前に…」
危うく言いそうになり、口ごもった。
『惚れているからだ』と。
「?」
「は、張り合っているのだろう!お前はいつもアイツのケガを見ているから、そういう面倒見のいいところが、姉的な存在感じゃないか!だから子供扱いされまいと、世話を焼きたがるんじゃないか?!」
口角がひくひく上がりながら、何とかごまかした。
高杉のことだ。
この場の風紀を乱さないよう、恋心を封じて今まで戦ってきたのだ。
鬼兵隊の将として、ずっと私情を隠し続けていたのだ。
なのにこんなところで奴の努力を焼け石に水にするわけにはいかない。
「あ、ああ。そうか。そこまで声も張り上げなくても聞こえているよ」
雅は耳の穴に小指を入れて、音をボリュームダウンした。