第13章 青い髪、赤い血
桂は一言断ってから、部屋に入った。
「どうだ?具合は」
「もう本調子さ。本調子のアンタと今やり合っても、負ける気はしないよ」
「なるほど。ベホマを使ったか。流石俺達の僧侶だ」
「僧侶じゃない軍医だ。いつから私たちドラクエやってたの?」
ヅラじゃない桂だ、のアレンジ風に返してみた。
頭は包帯ぐるぐるで昨日の戦禍を物語っているのに、その天然さは相変わらずらしい。
「アンタも元気で何よりだ。その調子なら銀も問題ないか」
桂は雅の部屋を一通り見渡した。
イメージ通り、清潔で余計な物がない殺風景な所だ。
「ここにいつも高杉を招いていたのか」
「……そうだけど、まさかアンタも何か誤解してると違う?」
やっぱり、私が高杉を別の意味で誘ってる、なんて噂があったのは本当だったのか。
本当に軽率だった。アイツに何て詫びればいいか。
「いやとんでもない。お前もアイツもそんな不祥事起こすほど馬鹿じゃないことは知っている」
友人らしいことを言って、うんうんと頷いた。
「…確かに、女医と患者のふしだらな関係なんて、どこのAVだって話か」
「俺はお前が凄く心配だ。仮にもそんな展開になったら」
雅は昨日のことを思い出した。
高杉は私に危機感を覚えさせようとあんなことしたんだろう。
だが残念ながら、私は危機感も何も覚えちゃいない。
普段、患者たちの面倒みてきた私が、今更あんな事されたって。
「つかぬことを聞くが、昨日高杉に何かされたのか?」
「……いいや。手ェ出したのは私の方だ。昨日アイツが怒っていたのはそのせいだろう」
「!」
この時雅は少しだけ嘘をついた。
本当は自分の無神経さで怒らせたのだが、自分が嫌がらせしたことにしようと考えた。
「まさか……To LOVEるしたのか?」
「その誤表示はやめろ。確かにtroubleだったが、断じてTo LOVEるまではいってない」
「じゃあDVでも受けたのか?高杉の奴め…」
「「高杉の奴め…」じゃないよ。いつから私がアイツに嫁いだ?手を出したのは私って言ったでしょ」
こんな話、戦友同士でやるものじゃないと今更ながら思う。
これ以上話続けたら、余計高杉の悪い噂が広がってしまう。
「とにかく、悪いのは私だから、アイツのことは怒らないでやってほしい」