第13章 青い髪、赤い血
「じゃあ…お母さんにとっての万能薬は父さんなの?」
「ええ。もちろんよ。あの人が私を見つけてくれなければ、私はこんな幸せになれなかったわ。アナタという宝を手に入れることもできなかった」
母親が父の話をすると、とても嬉しそうにする。
新婚ほやほやみたいで、娘も母がそんな元気そうになるのが好きだった。
(やっぱり父さんは凄いんだな……顔、見たこと無いけど)
私にくりそつって言ってたけど、そんなんかな?
でも、たとえ顔が似ていても、今の私じゃあの人とは天と地の差だろうな……
私はまだ、何もできない子供だから…
「しかも私はとてもラッキーよ。だって
・・
2錠もあるんだから」
「え?」
母親は娘の手をギュッと握り包んだ。
・・・・
「アナタもその1人に決まってるでしょ」
この時、娘は胸の奥から何かがあふれ出るような感覚を覚えた。
これを言葉に表すとしたら、多分、“嬉しい”なんだろう。
「傷を治すのは、その人の心を救うのにも等しいのよ。そして新たな繋がりを作ることもできるのよ。
いつかアナタも分かるんじゃないかしら?きっと大人になれば」
この時母親はある過去を思い出した。
こんなことを自信持っていえるほどの経験をしてきたのだった。
私には、大切な人なんていなかった。
周りは私のことを見ようとも知ろうともしなかった。
体も弱かったから、なおさら誰も見なかった。
だから病気なんて良くならず、むしろ悪化して死んでしまえばいいと思っていた。
生きた人形になるくらいなら、死んだ方がましだった。
そうすれば、無視されずにすむから。あの場所から解放されるから。
でもあの人が、あの地獄から私を生きたまま解放してくれた。
それから、大切な人たちと巡り会うことができた。
生まれつきの病気も治って、この世でたった1人の、私の娘に会うことができた。
だから、何としても生きたい。元気になりたいと、心の奥底から願うようになった。
母親は娘の青髪を優しく撫でた。
「いつかアナタも作りなさい。そばにいたいと想う人を」
自分にとっての大切な人を。愛する人を。