第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
桂は幼い頃、早くにも両親を亡くし孤独に生きていた。
孤独だったからこそ、皆との繋がりを大切にする。
皆を危険に晒さないよう、攻めではなく守りの戦いをする。
彼が将として相応しいのは、彼もまた優しいからだ。
「アイツが誰の弟子かは知らん。だが少なくとも、俺達と共に松下村塾で学び精進した、同じ吉田松陽の弟子であることには変わりない。
自分の信じる武士道を進む。それが松陽先生の教えだから俺が奴が決めたことを阻むことはできん。だが、アイツはバカではないから、分かってくれるはずだ」
雅は医者。患者の治療のため、本来なら戦に出るべきではない。
それでも出陣するのは、剣の腕が立つからだけではない。
『ただアナグラで潜むモグラのように籠もる奴が、惨憺たる戦場で必死に戦い疲れる隊士達の気持ちが分かるワケない』
戦に出ることで、敵のことをよく知り味方のことをよく知りたい。
ただ戦うだけでなく、敵はどんな兵器を使い、そして味方はそれでどんな傷を負うのか。
それらをこの目で観察して治療に生かすのが、彼女の所存だ。
「雅はお前に一番懐いているな」
「俺…!?」
そんなこと、初めて言われた。
雅は愛想の“あ”の字もないのに、端から見たら好いているなんて。
天然バカの桂が言うことはいつも引っかかるのだが、この時だけは悪い気がしなかった。
「冗談じゃねェのか?」
「ああ。冗談だ。おなごに好かれていると聞いた瞬間のお前のどや顔が見たくてな」
高杉は危うくけが人の桂を殴りそうになった。
「すまん。とにかく明日、お前からも雅に言ってほしい。俺も言ってみる」
「それは冗談じゃねーんだな?」
高杉は了承した。
「幕府の魔の手から、俺たちは何としてもアイツを護る必要がある。敵は回復系呪文が得意な僧侶をもっぱら狙ってくるからな」
「いつから俺たちドラクエやってた?攘夷戦争やってたんじゃねーのかよ」
桂は相変わらず絶妙なタイミングでボケをかましてくる。
「雅はザオリクも使えるほど優秀だが、メガンテをやりかねんくらい無茶をする。それは阻止しなくては」
「余計な比喩を除けば賛成だ。てめェもそろそろラリホーで眠っとけ。いつも以上に頭ひでェから」