第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
雅が作り出す医薬は、常識外れのものばかり。
痛みを完全に消すことができる奇跡の秘薬。
街に売っているものとは、けた違いに効く酔い止めや鎮痛剤もしかり。
それだけじゃない。施術の技術やそれを担う知識も計り知れないものだ。
半年かけてやっと治る骨折も、たった1週間で治すこともできる。
治療不可能とされてきたデリケートな内臓でさえ、何のためらいもなく切開して、輸血が必要であれば彼女オリジナルの医療道具を使い、淡々と治療する。
“死神”と呼ばれる理由は、彼女がまさに“神”の手を持っているからでもある。
「もし奴らが雅の存在に気付けば、俺たちよりも先に雅を殺すかもしれん。いや、殺さなかったとして奴のも、あらゆる手段を尽くして彼女の技術を奪うのかもしれん。恐らく後者の方が強いな」
・・・・・・
あらゆる手段。
その言葉を聞いた途端、さっきの出来事を思い出してしまう。
雅は滅多に怒ることはないが、医者としてのプライドはある。
己の技術をそう易々と他人に渡すなんてことは考えられない。
たとえ、殺されるよりも屈辱的なことをされても、多分奴は……
「戦がさらに長期化すれば、敵は雅のことを探るようになるやもしれん。そうなる前に俺は、奴は出陣を控えるべきだと考えている」
「……だがアイツが納得するとは思えねーな」
自然と高杉は桂と同じ目線になるよう畳の上に座っていた。
「……アイツには、松陽先生とは違う別の先生がいる」
「!!」
突然の話題転換に高杉は面を食らった。
しかもまるで知っているかの口調で。
「お前…」
「雅の腕を見れば分かる。きっと素晴らしい先生だったのだろう。技術だけでなく人としても」
彼女は無愛想でありながら、医者としての思いやりはある。
「……母親を救ってくれた恩人、なんて言ってたぜ」
言うか迷ったが、桂には話すことにした。
「そうか、ならきっとその者は雅にとっての大きな光であっただろう」
この場の皆の希望の光が雅であれば、それを生み出したのがその人。
そんな人の元で教えを受けていたにも関わらず、彼女は10年前、路頭をさまよっていた。
そして“もう1人の先生”(松陽)に出会った。