第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
会合の中央には、その男の首が転がっていた。
そばには、奈落の使いが1人跪いていた。
「ほんに、その目で見た主の心証はいかなものだった?朧」
そう。この男が、あの山で奈落の死体全てを持ち帰った男。白髪に顔の傷が特徴だ。
「あれらはもののふの中でも厄介な存在。松陽の弟子でもあり、その力は今回我々の羽をへし折るほど。
しかもその1人は、医の術を持ち合わせております」
「ほう。救いの術を持ちながら殺しの術も持つとは。生と死の番人“死神”とはよく言ったものだ」
天導衆の間でも、白夜叉と鬼兵隊と同等、“青い死神”の噂も耳にしていた。
敵には死を与え、仲間には生を与える存在だと。
「それだけではございません。あの女の腕。解毒不可能の毒を受けながら、その術を自らの身に施し生き長らえました」
天導衆の長たちはざわめき始めた。
「あの代物は、ここから遥か遠い星で発見された劇物。解毒薬なしで“我々”(奈落)が、リスクを犯しながら使うのは、敵を確実に仕留めるため。なのに一撃受けただけで中和するとは。その女、魔術でも使うのか?」
「あの者は、我々の予想を上回る術をまだ隠し持っていると見受けられます。傷を負った者の苦痛を完全に無くす、幻の治療薬。それを一から生み出すことができるとなれば」
長たちはある男の名を思い出した。
幻の治療薬を作り上げ、かつて貧しき者たちを中心に無償で医術を施し、多くの命を救った男。
英雄的存在であり、幕府に仇なした大罪人。
「“華岡愁青”……まさかあの男以外にも、そんな術を持つ者がいるとは…」
幻の治療薬。麻酔薬。別名“通仙散”。その製造方法は未だに不明。
今の幕府の力を持ってしても、似たようなものは作れるが、完全なものは作れなかった。
10年前、かつて幕府は愁青を幕医に任命し、地位と名誉と薬の特許を与えようとした。
幻とも言えるその秘薬があれば、国はより豊かになり多大の利益と恩恵を得ることができる。
国家が認める医師。質素な町医者から大いに出世し、後世に名誉を残せる。
しかし、愁青はそれを拒んだ。秘薬の製造法はたとえ幕府でも渡さないと。
彼は名誉ではなく、汚名を被ることを選んだ。
それから幕府は彼を罪人にした。
今現在彼がどこにいるのか、それともすでに始末されたのか。
その真相を知っているのは、天導衆だけ。