第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
(約束した覚えはないが…)
でも、あんな悲しそうな顔初めて見た。
まるで、泣いていた。
寝そべったまま口の端を拭い、唇に触れたら、高杉の温かい感触を思い出した。逞しい腕で力強く抑えつけられたことも。
(……だがそんなことされても何も感じない。確かにアンタの言う通り、普通じゃないんだな)
今回を機に、軽蔑されたかもしれない。嫌われたかもしれない。
誰に何思われようが何されようがどうでもいいが。
首を少し動かして、窓の外の桜を眺めた。
こんな状況でも、葉桜は変わらず美しいな。
周りの人間がどんなになろうとも、その美しさを保ち続けている。
さっきあんなことされても、怒りも感じなかった。
天導衆との対峙や晋助を蔑まれたときは、自然と腹が立ったのに。
(……私はもう、昔に戻れないんだろうな)
自分の心は、とうの昔に壊れた。
何もかも失った。家族も夢も志も。
残ったのは、後悔と生き残ってしまった自分。
何が医者だ。何が人を救うだ。
私がこんな風になってしまったのは、何も護れなかった自分の弱さのせい。
奪われたんじゃない。己の弱さで失った。
せんせーとの約束を破ってしまった罰なんだ。
昔の私であれば、恥じらいも愛寵もあっただろう。
もし松陽に会わなければ、あのまま私は心などもはやなく目的も見いだせないただの肉の塊として生き続けていただろう。
今は目的のために、こうして壊れかけの心を抱えながら、生きている。
(…安心しろ晋助。アンタらに同じ思いはさせないから)
寝間着に着替えようと、起き上がった。が、
ドクンッ!
「ッ!」
心臓にまたさっきの痛みが走って倒れた。
「う……ぁ…」
自分の中で何かどす黒いものが蠢いているような感覚に襲われた。
「…グッ…ァ……」
身をよじらせるほどの苦痛を体の芯からじわじわ感じた。
わずかに開いた瞳は赤く染まっていた。
(い、意識を…持ってかれ……)
歯を食いしばって、何とか自分に言い聞かせた。
“まだ、ばれちゃ、ダメだ…”
〈巨大な宇宙船〉
そこは天導衆の会合の場。
幕府を傀儡として裏から操る輩が、あることについて審議していた。
「フッ。虚の代理である奈落三羽だったが、たった2人の猿に敗退したと。所詮は付け焼き刃だったか」