第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
かぎなれた匂いに、見慣れた赤い色。
山の時よりも吐血の量が、明らかに増えていた。液体は手の平から腕を伝った。
「お…前…これ…」
「……」
驚いて言葉が出ない高杉とは対照的に、雅は黙々ときれいな手ぬぐいでふき取った。口についている血も。
「ごめん…驚かせた……」
何事もないかのように振る舞っているも、今日だけで2度の吐血。
「お前、まさか…“病”……なのか?」
自然とその言葉が出た。
「……」
“病か……あながち間違っちゃいないかもね”
「んなワケないよ。もしそうならあの山で、患者に病気うつすようなマネしないよ。あでも毒に犯されてる時はやってしまったけど」
このとき雅は余裕そうな微笑みを浮かべた。今日で何回目だろうか。
だが、高杉はそんな見繕いの笑顔は好きじゃなかった。
明らかに、自分を安心させるためにしているから。
笑顔になるのには理由がある。彼女もそう言った。
何より、可愛い笑顔が見たいから。
「俺から見たら、嘘ついてるようにしか見えねーが」
「嘘じゃない。一足早いエイプリルフールでもない。本当に薬の副作用。私だったら、年に一度のチャンスをもっと有効活用する」
雅が言うには、あの薬は彼女にしか使えない“秘薬”らしい。
あの薬には強い抗原が入っていて、そのおかげで体内に残留した毒物を完全に除去することができた。
そして彼女は、普段研究で毒を取り入れているから、人並み以上に毒の耐性があった。
だから彼女にしか効かないよう作られて、他の奴が使ったら間違いなく死ぬ。無論高杉も。
だから、毒を受けたのが高杉じゃなくて良かったと、彼女は思っていた。
(医者である私が仲間を死なせたら本当に、松陽に合わせる顔がなくなる。約束したから…)
「それより問題は、その毒の主である今回の敵だ」
「!」
雅は自分の体調よりも現実的に、今回の難敵について話した。
「アンタもその目で見たようにやり手だった。毒針も、
・・・・
私独りで応急処置できないよう、あえて“首筋”を狙ったんだ」
首筋だと、自分の口で吸い出すことはできないから。
さらに敵は私に毒を特定させないように、毒針どころか、仲間の亡骸全て回収した。
「敵の唯一の誤算は、アンタが駆けつけてきたってところかな」